陸の風や雨は、「風化」の働きで岩石の成分を削り取って川へ、そして海へ運ぶ。それが形を変えて海底に沈んで積もる。静岡大学の池田昌之(いけだ まさゆき)助教らの研究グループは、海底に積もった「堆積岩」を調べ、恐竜がかっ歩していた中生代に、太陽からの日射量のわずかな変化が、風化の激しさを大きく変えていたことを明らかにし、このほど発表した。日射量の増減が地球の環境に大きく影響することはこれまでにも指摘されていたが、風化との関係が詳細に分かったのは、これが初めてだという。

写真 分析に使った岐阜県各務原市のチャート。厚さ数センチの層が重なっている。1層が堆積するのに2万年かかる(池田さん提供)

池田さんらが注目したのは、海底が隆起して地上に出てきた岐阜県と愛知県に分布する堆積岩。おもにガラス質の粒子が固まってできた「チャート」という堆積岩だ。このチャートができたのは、今から2億5000万年~1億8000万年前の中生代前半。ガラス質でできた骨格を持った放散虫という動物プランクトンがそのころの海に多く存在し、放散虫が死んで沈んでチャートになった。

このチャートは、厚さ数センチの層が重なってできている。1層が何年分にあたるのかを、放散虫が進化して姿を変える速さなどをもとに推定したところ、約2万年であることが分かった。

地球は太陽からの日射で温められているので、日射量が変われば地球の気候も変わるはずだ。地球はこまのように「自転」しているが、すこし斜めに傾いている。この傾き具合が2万年ごとに変わる。そのほか、太陽の周りを地球が回る軌道の形なども、10万年、40万年、200万年といった周期で変化を繰り返す。それにともなって、地球に届く日射量も増減する。この変動周期を「ミランコビッチ・サイクル」という。

チャートは、各層の厚さが一定ではない。2万年の間に放散虫がたくさん積もれば、厚くなる。そこで、池田さんらは、層の厚さをもとに、放散虫の降り積もる速さがどう変化したかを調べた。その結果、ミランコビッチ・サイクルの2万年、10万年、40万年、200万年などと同期して、積もる速さが規則的に変化していることが分かった。放散虫がたくさん降り積もるのであれば、そのぶんのガラス質が、陸から風化により海に運びこまれていたはずだ。つまり、日射量の増減が、風化の強弱に大きな影響を与えていたことになる。

しかも、放散虫が降り積もる速さの変動は、日射量の増減をもとにした推定より、はるかに大きかった。この点について、池田さんらは、当時、地球上の大陸がひとつに集まっていた巨大な超大陸パンゲアに着目した。現在でも、夏季に海から大陸に向かって大規模な風が吹いて陸域の雨量が増える「夏のモンスーン」が発生している。超大陸パンゲアの時代には、さらに大規模な「メガ・モンスーン」が発生しており、その降水域の変動が風化の働きを増幅していたのではないかという。

風化の強弱は、地球温暖化にも深く関係している。海の中には、ある種のプランクトンや貝、サンゴなど、炭酸カルシウムの殻や骨格を作る生き物がいる。「カルシウム」は、風化により陸から運ばれてくる。この「カルシウム」と海中の「炭酸」で殻や骨格を作ってしまうと、海中の「炭酸」が不足する。足りなくなった分は、海が大気から二酸化炭素を吸収して補う。二酸化炭素は、水に溶けて「炭酸」になるからだ。大気中の二酸化炭素が減れば、温暖化が弱まる。まとめていうと、地球温暖化で気温が上がって降水量も多くなると、風化の働きが強くなり、結果として大気中の二酸化炭素が減って、温暖化が弱まる。細かな点では未解明な部分もあるが、おおよそは、こう考えられている。

恐竜がいた中生代は、暖かくて、大気中の二酸化炭素も現在の数倍の高濃度だったらしい。池田さんらの研究は、この時代について、風化の強弱を一目盛り2万年という高精度の「ものさし」で測ったことになる。池田さんらは、地球環境の変動や生態系の移り変わり、それとミランコビッチ・サイクルの関係などについて、さらに研究を進めていきたいという。

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