東京工業大学(東工大)は6月15日、ビスマスとコバルトを含むセラミックスにテラヘルツ光を照射すると非線形光学特性が5割以上増強する現象を発見したと発表した。

同成果は、東京工業大学理学院化学系 沖本洋一准教授、腰原伸也教授、同科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の東正樹教授、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点 廣理英基特定拠点准教授、同理学研究科 田中耕一郎教授らの研究グループによるもので、5月11日付けの米国科学誌「Physical Review Applied」オンライン版に掲載された。

極性材料の非線形光学材料への応用は、高強度レーザーの波長を変えるために不可欠の技術であり、光機能性開発の分野で注目されている。一般に極性材料は、その反転対称性の破れた独自の結晶構造に由来する「二次の非線形感受率」が存在し、入射した光の周波数の2倍の光を発生させることができる。これは第二次高調波発生(SHG)と呼ばれ、非線形光学材料の重要な応用例のひとつである。

これに加えて、高強度レーザーの照射によって物質の光学的・磁気的・電気的性質などを非熱的かつ超高速に変化できる光機能性材料を開発する研究が世界中で進んでいる。この現象は「光誘起相転移」と呼ばれ、電気的には実現不可能な応答速度で物質の屈折率や吸光度を制御する方法と考えられている。しかし、SHGに代表されるような非線形光学応答を光によって大きく変化させようという試みはこれまでは行われていなかった。

今回、同研究グループが用いた酸化物セラミックス結晶 BiCoO3では、極性構造に起因する二次の非線形感受率が存在するため、SHG効果を容易に観測することができる。そこで、同試料に対し尖頭値が約1MV/cmの電界強度を持つテラヘルツ光パルスを照射したところ、試料から発生するSHG強度は、テラヘルツ光パルスの照射によって瞬時に増強することが観測され、最大電界強度0.8MV/cmのときSHG強度は5割以上増えることがわかった。

これは、テラヘルツ光が結晶の歪みを引き起こし、二次の非線形感受率を増大させたために発生したものであり、試料の非線形光学応答の性能指数が劇的に増大したことを意味する。さらに、そのSHG強度変化のスピードは、照射したテラヘルツ波の波形に追随しており、1ピコ秒以内に変化し元の状態に戻ることがわかった。

同研究グループによると、このような巨大、かつ高速の非線形光学応答の変化はこれまでまったく見られなかったものであり、新しい非線型光学材料の性能指数を制御する手法を示すものであるとしている。

(a)極性構造を持つ酸化物セラミックスBiCoO3の結晶構造の模式図 (b)テラヘルツ電磁波を照射したときの試料から発生する第二次高調波(SHG)発生強度の増強の様子 (出所:東工大Webサイト)