名古屋大学(名大)は6月14日、水素化能力の低い「高原子価」金属であるレニウム(Re)錯体を触媒として用いて、カルボン酸を高選択的にアルコールに水素化することに成功したと発表した。

同成果は、名古屋大学理学研究科 斎藤進教授らの研究グループによるもので、6月13日付けの英国科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

酢酸やアクリル酸に代表されるカルボン酸を水素化し、アルコールに変換する反応は、水のみを廃棄物とするクリーンな反応であることが知られている。カルボン酸の水素化には従来、水素化能力の高い低原子価金属触媒が用いられてきたが、カルボン酸の同一分子内にさまざまな官能基が存在すると、官能基自体が水素化されたり、触媒が壊れたり、反応が進行しにくいという課題があった。

そこで今回、同研究グループは、水素化能力の低い高原子価金属について水素化触媒としての可能性を調べた。その結果、高原子価のレニウム金属の錯体を用いた場合に、水素化が効率的に進行することを発見した。

水素化触媒としての能力を向上させるため、レニウム錯体の配位子を詳細に調べたところ、キラフォスという有機リン系配位子を持つレニウム錯体が、カルボン酸の水素化触媒として特に優れていることがわかった。同錯体は、既存のルテニウム錯体が機能しない5気圧程度の温和でより安全な水素の圧力下でカルボン酸を水素化することができる。またカルボン酸のみを水素化できるため副生成物が少なく、高収率で目的のアルコールが得られたという。

さらに同研究グループは、レニウム錯体を用いてカルボン酸と酸無水物と反応させることにより増炭に成功。ケトンの新しい合成法を開発した。カルボン酸と比較してケトンの水素化は簡単に進行するため、同研究グループは、多種多様な炭素骨格を持つアルコールの計画的な合成も可能になるとしている。

従来法(上段)と今回開発されたカルボン酸の化学変換法(下段)。はさみで示された箇所の結合が触媒で切断される (出所:名大Webサイト)