金沢大学は6月15日、傷ついた胃の修復と再生に必要な組織幹細胞を発見したと発表した。これらの幹細胞でがん遺伝子が働く結果、胃がんが発生することも明らかになっている。

同成果は、金沢大学がん進展制御研究所上皮幹細胞研究分野 ニコラス・バーカーリサーチプロフェッサー、村上和弘助教らの研究グループによるもので、6月5日付けの英国科学誌「Nature Cell Biology」オンライン版に掲載された。

人間の胃は、暴飲暴食やストレス、細菌感染などにより常に傷ついており、日々修復されている。一方で、これらの傷害にさらされ続けることで胃がんが発生することが知られている。

今回、同研究グループは、大腸、小腸、子宮なのどさまざまな組織の幹細胞で発現しているLgr5という遺伝子に着目。胃体部でLgr5遺伝子が発現している細胞を、緑色蛍光タンパク質を用いて可視化できるモデルマウスを作製した。

同マウスを使って詳しく解析した結果、胃体部にもLgr5陽性細胞が存在していることを発見。さらにこれらの細胞は、傷害が起こった際にはWntというシグナルに依存して盛んに分裂し、胃組織を形作るすべての細胞を産み出し、傷ついた胃を修復することが明らかになった。これらの幹細胞を取り除くと、胃の組織構造はうまく再生されないという。一方で、これらのLgr5陽性幹細胞でがん遺伝子を働かせることで、胃がんが発生することもわかった。

実際のヒトの胃がんでもLgr5遺伝子は発現しているため、同研究グループはこの結果について、傷ついた胃を修復・再生するのに必要な組織幹細胞が、一歩間違うとがん幹細胞に変化してしまうことを示唆しているとしている。

胃組織幹細胞における遺伝子異常による胃がんモデル。胃組織幹細胞(Lgr5陽性細胞)にがん遺伝子(KRasG12D)を発現させると胃がんの発生母地となる腸上皮化生が生じる (緑) MUC5AC陽性の分化細胞 (赤)TFF2陽性の腸上皮化生細胞 (出所:金沢大学Webサイト)