理化学研究所(理研)は6月14日、クリプトン-98の原子核では2つの形がエネルギー的に近接して存在する「形状共存状態」が起こることを発見したと発表した。

同成果は、理研仁科加速器研究センター櫻井RI物理研究室 ピーター・ドルネンバル研究員、櫻井博儀主任研究員、上坂スピン・アイソスピン研究室 アレクサンドレ・オベルテッリ客員研究員、上坂友洋主任研究員らを中心とするSEASTAR国際共同研究グループによるもので、6月14日付けの米国科学誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載される。

原子核の形は、原子核内部の対称性とそのエネルギーによって決まる。たとえば、陽子数、中性子数が魔法数の場合は、原子核の内部は球対称の状態が最もエネルギーが低くなり、原子核は球形となる。球形の原子核から陽子、中性子の数を変化させていくと、原子核全体の形が楕円体に変形し、ミカン型やレモン型が現れる。

また原子核では稀に、2つの形が混在する「形状共存状態」と呼ばれる状態を取ることがある。形状共存は原子核内部の対称性の変化を観察するうえで貴重な情報を与えるため、形状共存した原子核を発見し、研究することは原子核研究における重要課題のひとつとなっている。

陽子数38のストロンチウム原子核と陽子数40のジルコニウム原子核では、中性子数60で形が急激に変化することが知られているが、陽子数36のクリプトン原子核では大きな変化が現れないことが謎となっていた。

そこで、同研究グループは今回、中性子数60を超えたところで大きな変化が現れるかを調べるため、重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」を用いて、中性子過剰なクリプトン-98および100(98,100Kr、陽子数36、中性子数62、64)原子核の励起準位を調べた。

具体的には、光速の約70%となる核子当たり345MeVまで加速した大強度のウラン(238U)ビームを用いて、核分裂反応により放射性同位元素のルビジウム-99および101(99,101Rb、陽子数37、中性子数62、64)をビームとして取り出した。続いて、生成した99,101RbビームをMINOS標的に照射し、98,100Krの励起準位を生成。この励起準位が脱励起する際のガンマ線を、標的周りに配置した高効率ガンマ線検出器で観測した。

この結果得られた98Krの励起準位のパターンと理論計算とを比較したところ、98Krの原子核はミカン型とレモン型が混在している、形状共存状態にあることが明らかになった。

理論計算によると98Krだけでなく、100Krも形状共存が起こっていることが予想されるという。同研究グループは今後、ミカン型とレモン型のどちらが多いのか、どのように形が変化するのかを解明することで、他の核種領域での形状共存状態の研究が進み、多くの研究成果が創出されることが期待できると説明している。

98Krの励起状態の準位図。黄色の矢印は観測されたガンマ線。ミカン型でとレモン型とのエネルギー差は0.545MeVしかなく、典型的な形状共存状態の原子核といえる (出所:理化学研究所Webサイト)