黄砂といえば、春の困った風物詩。小麦粉より小さな細かい砂粒が、中国大陸から風に乗って日本にやってくる。外に干しておいた洗濯物や車が汚れ、濃度の高い中国などでは、呼吸器などへの健康被害も報告されている。「いまここに、はたして黄砂が飛んできているのか」。その判定精度を上げる新しくて安い方法を、北海道大学の安成哲平(やすなり てっぺい)助教らのグループが見つけ、このほど発表した。

図 2016年3月7日に北海道に達した、黄砂とみられる黄色い帯の衛星画像(NASA提供)

黄砂については、気象庁がその飛来を目で確認して黄砂情報として発表している。安成さんらが注目したのは、2016年3月7日に北海道にやってきた黄砂。気象庁は「黄砂」と発表していなかった。つまり、気象庁の観測から漏れていた黄砂だ。

安成さんらが米航空宇宙局(NASA)の衛星画像で確認すると、大陸からやってきた黄砂らしき黄色い帯が北海道に届いていた。さらに、札幌市にある北海道大学の構内に設置している「エーロゾルセンサー」の記録を調べたところ、3月7日の正午ころから、直径が2000分の1ミリ以上の浮遊粒子(エーロゾル)が急増していたことも分かった。

黄砂の粒径は200分の1ミリくらいなので、この中に含まれているはずだ。しかし、大気中のエーロゾルにはいろいろな種類があり、このデータだけでは、急増が黄砂によるものかどうかを判定できない。

そこで安成さんらは、地球全体のエーロゾルの流れがわかるNASAのデータを確認した。すると、このとき北海道にやってきた高濃度のエーロゾルは、大陸のゴビ砂漠やタクラマカン砂漠からやってきたことが分かった。黄砂の発生場所と一致していたのだ。さらに、札幌市に近い滝川市で国立環境研究所が観測したデータから、やってきたエーロゾルが、黄砂に特有の形をしていることも分かった。

これらをもとに、安成さんらは、北海道大学構内のセンサーがとらえていたエーロゾルは飛来した黄砂であると判断した。安成さんらが公表した論文によると、このエーロゾルセンサーは、1台10万円以下で購入できる市販品。数百万円、数千万円する研究・業務用の観測機器より、はるかに安い。安成さんらの研究は、安価な装置を観測網に追加するだけで、黄砂観測の際の判定精度を高められる可能性があることを示したことになる。

ただし、いま上空にあるエーロゾルが黄砂かどうかを、このセンサーだけで判断するのは難しいという。安成さんは、「いずれは個人の方でもこのセンサーで黄砂を判定できるようになればよいのですが、そのためには、たくさんの事例を研究して、たとえば黄砂が飛来したときに特有のエーロゾルの増え方などを明らかにすることが必要です」と話している。

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