東京大学(東大)は6月6日、テルル(Te)の表層環境での挙動を支配する因子を解明したと発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 秦海波研究員(研究当時、現在は中国科学院准教授)、高橋嘉夫教授らの研究グループによるもので、4月20日付けの国際科学誌「Environmental Science & Technology」に掲載された。

52番元素であるTeは、最も毒性の高い元素のひとつであり、その放射性同位体は福島第一原発事故の際にも環境中に放出された。一方で、Teはレアメタルでもあり、金属資源としても重要な元素である。しかし、Teの地球表層での挙動に関しては極めて限られた情報しかなく、特にその分子レベルでの化学状態については、分析可能な手法が限られているため、ほとんど知見がないのが現状であった。

そこで同研究グループは今回、廃鉱山近傍の土壌試料中のTeの化学状態を、放射光から得られるマイクロビームX線を用いた蛍光X線マッピング-X線吸収微細構造(XAFS)スペクトル-X線回折からなる複合分析により決定した。

この結果、Te(VI)は主に土壌中の酸化鉄表面に共有結合を形成し、内圏錯体として吸着していることが明らかになった。これは、結合が弱い外圏錯体を形成する、Teと同族元素であるセレン(Se)の水溶性が高いこととは大きく異なり、Teが土壌中で水に溶けにくく、動きにくいことを示しているといえる。

酸化鉄表面のTe(VI)が形成する内圏錯体とSe(VI)が形成する外圏錯体の模式図 (出所:東京大学Webサイト)

さらに今回の研究では、Te、Se、ヒ素(As)などの陰イオンの土壌中への吸着のされやすさや内圏錯体の生成のされやすさが、酸解離定数から系統的に説明できるという、より基礎的かつ普遍的な環境化学的知見も示されている。

今回の成果について同研究グループは、環境科学と資源科学のいずれにおいても重要であり、今後のテルルの環境研究の基盤となるものであると説明している。