東北大学は6月5日、無電極ヘリコンプラズマスラスタを実現するうえで最も大きな課題とされている、磁力線からのプラズマ離脱・放出をもたらす磁力線の発散と伸長を引き起こすプラズマ状態の遷移条件を、室内実験により明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大学大学院工学研究科電気エネルギーシステム専攻 高橋和貴准教授、安藤晃教授らの研究グループによるもので、6月2日付けの米国科学誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。

無電極ヘリコンプラズマスラスタは、宇宙空間における次世代の推進エンジンとして期待されている。プラズマを構成する荷電粒子は磁力線に巻き付いて運動する特徴を有しているが、無電極ヘリコンプラズマスラスタでは、高周波放電によって生成された高密度プラズマを、外部からの磁場によってスラスタ出口まで輸送し、「磁気ノズル」と呼ばれるノズル形状をした磁力線に沿ってプラズマが加速され、運動量変換を経て宇宙空間へと高速噴射することで推力が得られる。

これまでの研究から、外部磁場とは逆向きの磁場を形成するようにプラズマ中に電流が流れる際に推力が増加することが明らかになっていた。一方、ソレノイドコイルまたは永久磁石によって作られる磁力線は必ず閉ループを形成するため、磁気ノズルを形成する磁力線は最終的に推進機本体へと戻ってくることになる。したがって、宇宙空間で推力を発生するためには、磁力線が推進機本体へと戻ってくる前に磁力線からプラズマを離脱して宇宙空間へと放出する必要があることから、磁力線からプラズマをいかにして離脱させるかが、磁気ノズルを用いた推進機を実現するうえでの最大の課題とされている。

今回、同研究グループは、実験装置の真空容器内に、最大5kW級の高密度・高周波プラズマスラスタを設置し、磁気ノズル中に高密度プラズマを形成。磁気ノズルの上流域では外部磁場とは逆向きの、下流域では外部磁場と同じ向きの磁場が、プラズマによって形成されているのを観測した。これはそれぞれ、磁力線を発散させるプラズマの状態(推力増加の効果)と、磁力線を伸長させるプラズマの状態(プラズマ離脱を促す効果が期待)に相当しており、今回の実験からこの2つの状態の遷移条件が明らかになったといえる。

同研究グループは今回の成果について、磁気ノズルからのプラズマ離脱・放出機構の解明と制御に向けて一歩前進したといえるとコメントしている。

今回観測された、磁力線発散と伸長の遷移イメージ図。図中左上がプラズマ誘起磁場計測結果、青線が外部から印加した磁力線、赤線がプラズマによる伸長が顕著になった場合の磁力線イメージ (出所:東北大学Webサイト)