レーザー干渉計による重力波観測を続けている米国LIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)は、今年の1月に観測した事象について、ブラックホール同士の衝突合体によって発生した重力波であったと発表した。LIGOによる重力波の検出は、2年ぶり3回目となる。2015年に観測された2つの事象と比べると、重力波の発生源がかなり遠くにあり、地球から約30億光年離れているという。

重力波の発生源となるブラックホール連星系の想像図。このイラストでは公転軌道面に対してブラックホールの自転軸が斜めに傾いた状態が描かれいる(出所:LIGO)

LIGOは現在、ルイジアナ州のリビングストン観測所と、ワイオミング州のハンフォード観測所の2つのサイトを使って運用されている。今回の重力波事象では、1月4日の午前2時11分58秒にハンフォード観測所のレーザー干渉計が反応し、そこから3ミリ秒後にリビングストン観測所でも同様の信号をとらえたという。

LIGOでは、全長4kmにおよぶ二方向に伸びた「腕」と呼ばれる部分の間で、レーザー光を鏡に反射させて往復させている。重力波は、空間の伸び縮みがさざ波のように宇宙を伝わっていく現象であり、重力波が到達すると腕の間の空間が伸び縮みするので、腕の方向によってレーザー光が進む距離が変わる。この差分を検出することで重力波をとらえるという仕組みである。

ブラックホールの合体にともなう質量変化(出所:LIGO)

研究チームは今回とらえた信号を解析した結果、地球から30億光年離れた場所にあるブラックホール連星系で、2つのブラックホールが衝突合体したことによって発生した重力波であると結論づけた。衝突前のブラックホールのうち、1つは太陽の32倍の質量、もう1つは太陽の19倍の質量をもち、お互いの周りを公転していた。そして公転軌道がだんだんと狭くなって、ブラックホール同士が近づいていき、ついに衝突合体したとされる。合体で1つになったブラックホールは太陽の49倍の質量をもつ。32+19=51なので太陽2個分の質量が足りない計算になるが、この太陽2個分の質量こそが、衝突の瞬間にすべてエネルギーに変換され、0.12秒という短時間で重力波として放出されたと考えられている。

衝突前の2つのブラックホールのサイズは、大きいほうが直径約190km、小さいほうが直径約115kmで、合体後は直径約280kmになったと計算されている。この場合の「ブラックホールの直径」とは、ブラックホールの強い重力場につかまった光がブラックホールから脱出できなくなる範囲を表す「シュヴァルツシルト半径」を求め、その値を2倍したという意味である。

ブラックホール連星系では、ブラックホールはお互いの周りを公転運動するのに加えて、それぞれが自転運動もしていると考えられている。自転方向は公転方向とそろっている場合もあれば、逆方向の場合もあり、あるいは自転軸が公転面に対して傾いている場合もあり得る。今回観測されたデータからは、自転軸が傾いているケースかどうかは結論が出ていないが、少なくとも一方のブラックホールは、自転と公転の方向がそろっていないものだったことを示唆するデータがあるという。このことは、2つのブラックホールが最初から同時に誕生したのではなく、別々の場所で発生したブラックホールが後から出会って連星系を形成した可能性があるとする。

太陽2個分の質量が瞬間的にエネルギーに変換されて放出されるという凄まじい現象ではあるが、それでも、地球上で重力波として検出される空間の伸び縮みは極めて微量なものになってしまう。今回の重力波によって全長4kmあるLIGOの腕が伸び縮みした長さは、1アトメートル(10-18m)程度であり、なんと陽子1個分の1000分の1程度の長さしかない。

キャッチした信号が重力波と無関係な現象によるノイズである可能性について慎重な検討を加える必要がある(出所:LIGO)

このような極微小な変化をとらえるのは至難のわざである。観測機器は重力波と無関係なさまざまなノイズも拾ってしまうため、重力波によるわずかな信号をその他のノイズから区別することは非常に難しい。LIGOにとっては重力波と関係ない振動はすべてノイズであり、その中には、観測機器に光子が降り注ぐことによって発生する雑音、地震や潮汐などによる振動、近くの道路を走るトラックによる振動、観測施設を揺らす強風、干渉計内でのレーザー光の散乱など、ありとあらゆる現象が含まれている。

研究チームは、これらのノイズの可能性を慎重に検討した結果、今回とらえた信号がハンフォードとリビングストン(2つの観測所は約3000km離れている)で偶然ほぼ同時に発生したノイズによるものである可能性は低く、99.997%の確率で重力波であるといえると結論づけている。

重力波の検出はこのように極めて微妙かつ繊細な作業であるため、世界各地の独立した複数の研究機関がそれぞれ同時に重力波をとらえることに成功すれば、データの信頼性は大幅に向上する。重力波観測施設としては現在、イタリアに建設された「VIRGO」が改良工事中であり、日本でも岐阜に建設された大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が本格的な観測活動を準備中である。

複数の観測施設でデータがとれるようになると、重力波の発生源の特定も素早く正確にできるようになるため、その情報を世界中の天文観測所が共有することによって、重力波発生事象にともなう微弱な発光などを観測できるようになると期待されている。