東京大学(東大)は5月29日、脂質の一種であるリゾフォスファチジルイノシトール(LPI)が、消化管ホルモンの一種グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促進することを発見したと発表した。

同成果は、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程 原田 一貴氏、坪井貴司准教授らの研究グループによるもので、5月22日付の国際科学誌「Journal of Biological Chemistry」オンライン速報版に掲載された。

LPIは、リゾリン脂質と呼ばれるリン脂質分子の一種で、細胞の移動や開口分泌に関与しており、肥満や糖尿病の患者で血中濃度が上昇することが知られている。また、そのGタンパク質共役型受容体であるGPR55は、膵臓β細胞からのインスリン分泌に関与していることが知られており、LPIやGPR55が血糖値制御に重要な役割を担っている可能性が考えられるが、小腸から分泌されてインスリンの分泌を促進する消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)と、LPIやGPR55の関連性は明らかになっていなかった。

今回、同研究グループは、GLP-1を分泌する小腸内分泌L細胞由来の培養細胞、またマウスから採取した小腸組織において、LPIの投与によりGLP-1の分泌が増加することを発見。さらに、細胞内のCa2+や膜動態を生きたまま観察できる顕微鏡技術により、LPIがGLP-1の分泌を引き起こす詳細な過程を明らかにした。

LPIはGPR55に作用することに加え、イオンチャネルの一種であるtransient receptor potential cation channel subfamily V member 2(TRPV2)の細胞膜への移行を促して活性化することで、小腸内分泌L細胞からのGLP-1分泌を促進しているものと考えられるという。

小腸内分泌L細胞とGLP-1の機能。小腸内分泌L細胞は小腸上皮に少数存在し、GLP-1を分泌する。GLP-1は膵臓β細胞に作用しインスリン分泌を促進するほか、神経系に作用し食欲を抑制する。GLP-1の分泌は、消化管管腔由来の栄養素や腸内細菌代謝物、また血管や神経由来のホルモン、神経伝達物質により制御されている (出所:東大Webサイト)

GLP-1はインスリン分泌の促進や食欲の抑制といった作用を持つため、糖尿病の新規治療薬 の標的候補として注目されていることから、同研究グループは今回の成果について、GLP-1分泌機構の詳細な解明が進めば、新たな糖尿病治療法の開発に貢献できるものと説明している。