物質・材料研究機構(NIMS)は5月31日、過酷環境下に強いダイヤモンド集積回路を開発するための第一歩として、2種類の動作モードを持つ金属-酸化物-半導体(MOS)電界効果トランジスタ(FET)を組み合わせたダイヤモンド論理回路チップの開発に成功したと発表した。

同成果は、NIMS機能性材料研究拠点 劉江偉独立研究者、技術開発・共用部門 小出康夫部門長らの研究グループによるもので、5月9日付けの米国IEEE電子デバイス学会「IEEE Electron Device Letters」電子版に掲載された。

ダイヤモンドは、高いキャリア移動度、大きな破壊電界および大きな熱伝導率を持つことから、高温、高出力、および高周波で安定に動作する電流スイッチおよび集積回路への応用が期待されている。

しかし、これまでダイヤモンドMOSFETのしきい値電圧の正負を制御することが難しく、2種の動作モードであるデプレッションモード(Dモード)およびエンハンスメントモード(Eモード)のMOSFETをそれぞれ同一チップ上に作製することは困難であった。今回の研究では、同研究グループがこれまでに開発してきた独自のしきい値制御プロセス法を利用することで、これら2種類のMOSFETを同一チップ上に作製することに成功した。

同研究グループは、2012年に光電子分光法により、種々酸化物と水素終端ダイヤモンド界面の電子構造を解明、2013年には極めて低い漏れ電流密度を持つダイヤモンドMOSキャパシタの開発に成功するとともに、困難であったEモード動作する水素終端ダイヤモンドMOSFETの開発に成功している。また2014年にダイヤモンドMOSFETと抵抗器の組合せでインバータ論理回路チップを試作し、2015年にはダイヤモンドMOSFETのDモードとEモードの制御プロセス法を開発するとともにそのメカニズムを解明。今回の成果は、これらの一連の研究成果が基盤となって達成されたものであるという。

ダイヤモンド論理回路チップは、高温、放射線や宇宙線下の過酷環境条件においても安定に動作するデジタル回路などの集積回路への応用が期待されている。

作製されたダイヤモンド論理回路チップの顕微鏡写真 (NIMS Webサイト)