東京大学生産技術研究所は、さやばねが邪魔で見えなかったテントウムシの後ろばねの折り畳み方法を、透明な人工さやばねを移植する方法によって可視化し、単純な動作でコンパクトにはねを折り畳む仕組みを解明したと発表した。

移植手術の概略(出所:東京大学プレスリリース)

人工さやばねを移植したナナホシテントウ(左)(出所:東京大学プレスリリース)

同研究は、東京大学生産技術研究所の斉藤一哉助教・岡部洋二准教授、国立科学博物館研究主幹の野村周平、九州大学総合研究博物館協力研究員の山本周平、東京大学大学院情報理工学研究科講師の新山龍馬らの研究グループによるもので、5月15日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン版に掲載された。

テントウムシは飛翔が特に得意な甲虫で、一瞬で後ろばねを展開して離陸することができる。この高速展開には、はねに備わっている開こうとする復元力が使われていることが知られているが、畳む方法については、さやばねと胴体が使われることは指摘されていたが、単純な動きだけで何故複雑な折り畳みパターンに収納できるのかわからず、飛行時の安定性と収納時のコンパクトさを両立させている後ろばねのフレームがどのような構造になっているのかも不明なままであった。折り畳みの際、最初に閉じられるさやばねが邪魔になり、その下で具体的に何をやっているのかを観察できなかったためということだ。

高速度カメラでの折り畳み動作の解析(出所:東京大学プレスリリース)

マイクロCTスキャンによる3次元形状解析。斜線で示しているのがテープ・スプリング型のフレーム。(出所:東京大学プレスリリース)

同研究グループは、歯科用のシリコン樹脂でさやばねの型を取り、透明な紫外線硬化樹脂で作成された人工さやばねをナナホシテントウムシに移植することで収納プロセスを可視化した。高速度カメラで撮影された動画からは、テントウムシがさやばねの内側の曲面やエッジ、三日月型の翅脈を器用に使ってはねに折線を導入し、背中でこすり上げることで徐々にはねを引き込んでいることが明らかとなった。さらに、マイクロCTスキャナによって展開時と収納時のはねの3次元形状の解析を行い、はねの折線部分(ヒンジ)には人工衛星用展開アンテナや巻尺にも用いられているテープ・スプリング構造が使われていることを明らかにした。この構造は、伸ばした状態で安定化し十分な強度を発揮するうえ、必要に応じて好きな場所を弾性的に折り曲げて畳むことができる。テントウムシはこの特性をうまく使い、素早くコンパクトに折り畳めるうえ、飛行の際の羽ばたきに耐えられる高い強度をもったはねを実現していると考えられるという。

同研究により、テントウムシの後ろばねは、進化の過程で「飛行」と「折り畳み」のふたつの機能が見事に融合されていることがわかった。また、硬いパーツをジョイントで繋いで作る多くの人工的な変形機構と異なり、フレームの部分的な柔軟性が巧みに利用されていた。パーツの少ない非常にシンプルな構造で複雑な折り畳み形状を実現できるのはこのためで、ここから学ぶことで、人工衛星用大型アンテナの展開からミクロな医療機器、傘や扇子などの日用品まで、形状変化機能を持つさまざまな製品の設計・製造プロセスへの応用が期待されるということだ。