TI、自動車/産業分野向けミリ波レーダーチップ5製品を発表

Texas Instruments(TI)は米国時間の5月16日、自動車用および産業用にミリ波レーダーチップ5製品を発表した。これに先立ち同社が記者説明会を開催したので、その内容をお届けしたい(Photo01、02)。

Photo01:製品全般と自動車向けの説明を担当されたSudipto Bose氏(Director of Marketing and Business Operations, Automotive Radar)。右手に持っているのが今回発表になった自動車用のレーダーモジュール

Photo02:産業向け製品の説明を担当されたRobert Ferguson氏(Business Manager & WW Marketing Director)

TIはご存知の通り産業機器などに強い会社であるが、それだけでなく自動車向けにもコミットしており、SafeTIという製品ラインアップを持っているわけだが、そうしたTIにとって今後の自動車を含めたシステムのインテリジェンス化は次のビジネスにつながると考えている(Photo03)。

Photo03:この話だけだと「ではすべてのシステムをインテリジェンス化しましょう」みたいになるのだが、今回はちょっと話しが違う

ただ今回の話はそのインテリジェンス化の中でもセンシングに関わる部分である。具体的には距離・速度・方向といった条件をさまざまな環境で確実にセンシングできる手段としてミリ波レーダーのソリューションを提供する、という話である(Photo04)。ただし従来の場合、複数のディスクリートチップを組み合わせて構成しており、パッケージサイズもさることながら、特に精度を出すのが難しかったという(Photo05)。これを今回の製品では1チップ化した(Photo06~08)、というのが非常に大きい。

Photo04:一見自動車向けにも見えるが、産業用途向けにもこうした条件は好ましいとする。詳細は後ほど

Photo05:特にMIMOを利用したPhased Array(位相を変化させることで中心軸以外の方向を検知する)をやろうとすると、微妙なタイミング調整が肝になるだけに、ディスクリートの組み合わせはこれが大変だった

Photo06:ミリ波だと周波数は数十GHz(今回の製品だと76~81GHz)になる。これをスタンダードCMOSで実現できたのが大きかったとする

Photo07:実際のチップ。産業向けのIWR1642の試作品ということで頭にXがついている模様

Photo08:パッケージはBGAが今回紹介されたが、他のものがあるかは不明

今回の製品の特徴はこちら(Photo09)である。アンテナ以外のすべての要素を完全にCMOSで1チップ化(1ダイ化)しており、距離精度は50μmに及ぶ。それでいながら最大300mまでの距離の測定が可能とされる。

Photo09:Photo01でBose氏は自動車向けのモジュールを手にしながら「スマートウォッチと同等のサイズが実現できた」としているが、実際のところはスマートウォッチよりは少し大きい

さてその製品であるが、車載用が3製品と産業用が2製品という構成になっている(Photo10、11)。まず車載用だが、長距離レーダ向けがAWR1243となる(Photo12)。ちなみにBose氏によれば、このAWE1243のみ、複数のチップをカスケード接続することで、Wide Array MIMOセンサとして利用する事が出来るという話だった。いわゆるPhased Array Raderである。これもあってか、AWE1243はRFのみが統合されたチップとなっている。

Photo10:両者の違いは、車載用が自動車向け温度グレード(-40℃~125℃)とISO26262対応、それと自動車向けのI/Fを搭載というあたりで、産業用は産業向けになっているとの事。基本的な機能や精度に違いはないとの事

Photo11:産業向けには1243が無いが、これは1243が長距離向け製品で産業用にはすぐには用途が無い、というあたりだろうか

Photo12:こちらは進路前方の障害物や車、道そのものを検知することで、アダプティブクルーズや緊急ブレーキなどに役立たせようというもの。なので特に高速走行を考えると、最大300m程度のレンジが必要になる

車載用でも近接(主に車内用)センシングに使われるのがAWE1443(Photo13)で、こちらは当然検知距離は短いものの、その分精度は高い。実際デモでは運転手のモニタリングで、心臓の周囲の細かな振動を検知することで、心拍数と呼吸数をフィルタリングを掛けて割り出すという事が行われていた。この製品はMCUが搭載されている。

Photo13:Photo07に「髪の毛の幅まで検知可能」とあるように、解像度が50μmと非常に小さいため、呼吸とか心拍などに起因する本当に僅かな人間の体の動きを距離として測定できる、という話だった

最後が短距離レーダーのAWR1642(Photo14)で、距離的には数m~数十mのオーダーになるのだろうが、その代わり広範な検知が出来るようになっている。この製品はMCUに加えてDSPも搭載されている。

Photo14:競合するのはLiDARという事になる。LiDARの場合は機械でミラーをブン廻すことで広いカバーレンジを確保しているが、AWR1642で同じ事をやろうとするとある程度の数を埋め込んで全周カバーということになり、コストパフォーマンスの観点ではやや分が悪い。ただこれについてBose氏は「稼動部が無いから信頼性は高いし、精度が(LiDARより)ずっと高いのがメリットになる」とした

ちなみにいずれの製品もマルチモーダル動作が可能となっており、走行シナリオにあわせて動作モードを変更できるという話であった(Photo15)。

Photo15:モードの切り替えはホスト側から行うことになるが、瞬時に切り替わるそうだ

Photo16が実際にAWR1642を搭載した車載向けモジュールであるが、実際基盤の寸法は25mm×25mmときわめて小さい。従来のミリ波レーダー(Photo17の左)と比較すると2周りは小さい感じで、車への実装の苦労が大分解消されそうだ。

Photo16:アンテナは送信×2、受信×4の2×4 MIMO構造。一見受信側はアンテナ6本に見えるが、両端のアンテナはシールドに落ちているように見えるところを見ると、反射板として機能するのだろうか?

Photo17:大きさだけでなく厚みもずっと少ないため、体積比で言うと1:5を超えるのではないかと思う

次が産業用途である。Ferguson氏曰く「今回紹介するのはほんの一例であって、どんどん新しい用途が出てきている」ということだが、例えばタンク内のレベルセンシング(Photo18)。ミリ波レーダーを使うと材料ごとに反射率が異なるので、これを利用して材料の違いを検知することもできるそうだ。あるいは交通監視や境界区域監視にも使える(Photo19)とする。

Photo18:この手のものだと従来だと機械式(フロートを浮かべ、その位置を検知する)以外としては超音波センサーが良く使われてきたが、これに比べてはるかに正確に測定可能とする

Photo19:物体の距離とか位置などからイレギュラーなものをすばやく検知し、そこにカメラを合わせる、という具合にカメラと連動させる使い方も可能との事

他にも、フォークリフトとかロボティクス、ドローン、オフィスの監視機能まで、非常に幅広い用途に利用できるという話であった(Photo20)

Photo20:フォークリフトとか自動倉庫、さまざまな大型機械など「距離を正確に測定する必要がある」用途には便利に思える。またドローンの場合、真下の距離と同時に反射率も測定して、例えば水面に降りたりしないようにするといった事も可能だという

開発環境としてはmmWave Studioに加え、短いもので数分、長いと30分に及ぶトレーニングビデオ、全製品共通のソフトウェア、開発ツールやリファレンスデザインなどが提供される(Photo21)。特に開発ツールに関しては、EVMが299ドルで提供予定である(Phoot22)。

Photo21:このあたりの充実振りはTIではおなじみのもの

Photo22:最終的なEVMはAWR1xEVM、及びIWR1x EVMという名称になるはずである。右上の四角がシルク印刷された部分が、ほぼPhoto16の基板と同じ構成である(アンテナ部の構成が少し違うが)。ちなみにこのEVMの場合、送信出力は10dBmだそうで、これで170mまでの検知が可能だそうだ

ところで自動車用、ということではSafeTIのラインアップに入りそうな感じだが、Bose氏によれば「SafeTIで利用しているIP、例えばMCUとかはSafeTIのものがそのまま利用されているが、SafeTIに含まれる訳ではない」との事。実のところ76GHz~81GHzが自動車向けと産業向けの両方に利用できる国は日本だけということもあり、また何しろまだシリーズの製品数が少なく、産業用とラインアップがほぼ重複していることもあるので、今はまだミリ波事業部でまとめて扱う、という形になるようだ。

特に自動車ではセンサフュージョンという名前の下にさまざまなセンサ群を統合するのが昨今の流行であり、ここにさまざまなセンサメーカーが新製品を投入しているが、産業用と絡めてこれを出すというあたりが他社とTIの違いという感じである。自動車向けよりも産業用にこれからどれだけ出るか、ちょっと興味あるところだ。

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