絶滅危惧種のiPS細胞から卵子と精子を樹立し、異種間キメラを作製

宮崎大学は、絶滅危惧種のアマミトゲネズミからiPS細胞を樹立し、マウスとの異種間キメラを作製したと発表した。

研究の概要。一般的に、生まれてくる異種間キメラの性別は、トゲネズミiPS細胞が注入されるマウス胚の性別に依存する。

同研究は、宮崎大学の本多新氏・Narantsog Choijookhuu氏・伊豆美奈氏・河野好裕氏・本勝希実子氏・猪口瑞穂氏・Ah-Reum Lee氏・鍋倉弘樹氏・菱川善隆氏・城ヶ原貴通氏・越本知大氏、理化学研究所の本多新氏・大日向康秀氏、京都大学の大田浩氏・斎藤通紀氏、滋賀医科大学の築山智之氏、北海道大学の黒岩麻里氏らの研究グループによるもので、5月12日に米国サイエンス誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。

哺乳類の雌雄は性染色体によって規定されており、メスならばXX型、オスなら ばXY型であり、オスになるためにはY染色体(の遺伝子)が必要不可欠である。しかし、Y染色体は進化の過程でどんどん退縮しており、X染色体に比べて小さくなっていることが知られている。もしもこのまま退縮していけば、将来Y染色体が消失してしまう可能性もあるという。進化の過程で既にY染色体が失われた生物としては、奄美大島のみに生息する国の天然記念物で絶滅危惧種のアマミトゲネズミ(図1)が挙げられる。極めて稀な性染色体構成をもつ(雌雄共にXO型)ため、ゲノムの雌雄差がほとんど見いだされていない、不思議な動物(図2)である。性決定様式や染色体構成、あるいは生物進化など様々な観点から、興味深い研究対象であるが、その希少性からアマミトゲネズミの直接解析は現実的でなく、多くの謎が未解明のままであった。

図1:絶滅危惧種アマミトゲネズミ

図2:アマミトゲネズミ性染色体の不思議

同研究グループは、「稀少動物」という制限を克服するために、フィールド調査で得られたメスのアマミトゲネズミ尾部先端の細胞を増やし、最適なiPS細胞の培養条件の模索を重ねて、キメラ動物や生殖細胞を作ることができるナイーブ型のiPS細胞を樹立した。次に同研究グループは、アマミトゲネズミのiPS細胞を体に含むキメラ動物の作製を試みた。しかし、絶滅危惧種の胚や仮親は用意できないため、マウスを用いてアマミトゲネズミとの異種間キメラを作製した。その結果、メスのアマミトゲネズミiPS細胞は、異種間キメラとして成体の全身に寄与しただけでなく、卵巣では卵子に分化していたという。さらに、メスのアマミトゲネズミiPS細胞がオスのキメラに寄与した場合、精子にも分化しており、Y染色体がなくてもオスが生じるように進化したアマミトゲネズミは、メスの細胞でも精子に分化できることが判明したということだ。

しかし、同研究で得られたアマミトゲネズミとマウスの異種間キメラでは、体に含まれるアマミトゲネズミ細胞の割合がマウス細胞に比べて少ないことが判明しており、特に卵子や精子 に分化したアマミトゲネズミ細胞はごくわずか(全体の0.29~0.03%)であったため、今後は、体外で効率良くアマミトゲネズミの卵子や精子を分化誘導していくという。また、将来、体外で効率良く卵子や精子が作られるようになれば、体外受精や顕微受精などにより、XX型、XO型、OO型のアマミトゲネズミ胚を得ることができるようになり、それらの胚がどのような発生運命をたどるのかを解析できるようになるということだ。そのほか、アマミトゲネズミの生殖巣がどのように決定されるのか、iPS細胞と発生工学を駆使して調べるような研究も期待されている。

また、現在、地球は深刻な生物の絶滅期にあり、その多様性が脅かされている。同研究チームは今回、絶滅危惧種一個体のiPS細胞から卵子と精子を生じさせることに成功しており、種の完全喪失の備えとしてiPS細胞が非常に効果的であることも証明されたということだ。



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