東大、場の変化を読みとる粘菌アメーバの巧みなコミュ力を発見

東京大学は、粘菌細胞の単一細胞レベルの実験計測から、刺激濃度の「変化の比」に応答が依存すること、細胞間コミュニケーションが細胞密度に左右されずに確立することが明らかになったと発表した。

細胞は細胞外にシグナル分子を分泌し、細胞間コミュニケーションを行うが、情報伝達を媒 介するシグナル分子の濃度は細胞密度などの環境要因に強く依存してしまう。粘菌細胞は刺激強度 の変化の比に対して応答する。この特性によって細胞密度に依存せずに細胞間コミュニケーション が確立する。(出所:東京大学プレスリリース)

同研究は、東京大学博士課程3年生の神野圭太氏(現オランダAMOLF博士研究員)と、近藤洋平氏(現・岡崎統合バイオサイエンスセンター助教)、中島昭彦特任助教、同大学技術支援員の北原(旧姓・本多)麻衣氏(現・国立がん研究センター研究所 特任研究補助員)、金子邦彦教授、澤井哲准教授らの研究グループによるもので、雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」に掲載された。

細胞組織レベルの機能の背後には、細胞間コミュニケーションが重要な働きを担っている。 細胞はシグナル分子を細胞外に分泌し、これを受け取った他の細胞が、さらにシグナル分子を放出、あるいは分解するなどして、細胞集団の協調的な運動や、分業などを行っている。こうしたコミュニケーションが円滑に行われるためには、電話線のようにしっかりとした通信媒体が理想的のように思われるが、細胞間コミュニケーションの多くでは、細胞外の液体中を自由に漂うシグナル分子が用いられるため、環境(細胞の密度等)の変化によってその濃度が大きく変わってしまう。このような状況であっても、安定したコミュニケーションがいかにして達成できるのか、これまでよくわかっていなかったという。

また、単細胞生物の細胞性粘菌は、飢餓状態になると、環状の核酸サイックリックAMP(cAMP)を合成・分泌し、分泌されたcAMPは近隣の細胞の細胞膜上の受容体によって検出され、この刺激がcAMPのさらなる合成・分泌を促し、cAMPによる細胞間コミュニケーションが確立する仕組みとなっている。このコミュニケーションにより、細胞集団は、この情報を利用して一箇所に集合し、最終的に飢餓を凌ぐための多細胞体を形成するという。このcAMPによる細胞間コミュニケーションは、細胞密度4桁ほどに渡って観察されることが分かっているが、細胞密度に依らず細胞間コミュニケーションを確立し多細胞体を形成する性質を支える具体的な仕組みもまた、これまで明らかにされていなかった。

今回、同研究グループは、細胞性粘菌キイロタマホコリカビの集合過程で行われる細胞間コミュニケーションにおいて、個々の細胞の刺激(細胞外cAMP)への応答(細胞内で合成されるcAMP)を、蛍光タンパク質間の蛍光共鳴エネルギー移動を利用した一分子cAMPセンサーによって定量化した。その結果、個々の細胞が、細胞外cAMPの濃度そのものではなく、その「変化の比」に対して応答する性質、「倍変化検出」(fold-change detection) という特徴を持つことが明らかとなった。これは、刺激レベル1から2への変化と2から4への変化が同一の応答を引き起こすということである。また、理論的解析の結果、多数の細胞がコミュニケーションを行なった結果生じるcAMP振動が、細胞密度に依存しないことが示された。これは、単一細胞の「倍変化検出」応答特性が、細胞集団全体を支配する方程式に対称性(スケール変換に対する不変性)を与えるためという。

細胞外空間に不確定性が伴う状況は、感染や免疫反応、発生など、多くの場合で想定される状況となる。今回の結果は、こうした現象の背後にある細胞間コミュニケーションの頑健性の理解に寄与すし、将来的にはその医学的応用に寄与することが期待されている。また、「変化の比」に対する知覚現象としては、ヒトの五感で成立する「知覚可能な刺激の変化は変化前の刺激の強度に比例する」というヴェーバーフェヒナーの法則が知られているが、今回一細胞レベルで類似の性質が明らかになったことで、種や階層によらない生物に普遍的な情報処理特性のひとつが示唆されたとのことだ。



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