山梨大学などは5月8日、脳内のグリア細胞と呼ばれる細胞群が、外傷性脳損傷(TBI) から脳を保護する仕組みを明らかにしたと発表した。

同成果は、山梨大学医学部薬理学講座 小泉修一教授、篠崎陽一講師、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 田中謙二准教授、生理学研究所 分子神経生理部門 池中一裕教授らの研究グループによるもので、5月9日付の米国科学誌「Cell Reports」に掲載された。

脳には、電気的興奮性により素早い情報発信・処理を行う神経細胞のほかに、グリア細胞と呼ばれる細胞群が存在している。グリア細胞は、ミクログリア、アストロサイトの複数のグリア細胞から構成されており、最近の研究から、これらグリア細胞も脳の情報処理・発信に関係していることが明らかになってきている。

一方、TBIによる神経傷害は、物理的傷害による直接作用、神経炎症などによる傷害によって誘導されると考えられている。特に後者のTBIによる二次性の神経傷害が問題となっているが、その詳細な分子メカニズムはこれまで不明となっていた。

今回、同研究グループは、マウス大脳皮質のTBIモデルを使って、ミクログリアおよびアストロサイトの応答を詳細に検討。この結果、TBIにより、まずミクログリアがTBIを感知して活性化型になること、ミクログリアの情報を受け取ったアストロサイトが反応性型(反応性アストロサイトに変化すること、反応性アストロサイトは脳保護型であることが明らかになった。

TBIを最初に感知したミクログリアは、活性化して炎症性サイトカインを産生し、これによりアストロサイトにTBIのその情報を伝え、反応性アストロサイトへの変身を誘導。ミクログリアから情報を受け取ったアストロサイトは、自身のP2Y1受容体の発現および機能を低下させることで神経保護型の反応性アストロサイトになり、突起を延ばして血球細胞の浸潤を防ぐことにより神経細胞をさらなる傷害から保護するという。

同研究グループは、今回の成果より、外傷性脳損傷、特に二次性の脳損傷から脳を保護する戦略として、アストロサイトのP2Y1受容体をコントロールすることの有用性が期待されると説明している。

脳傷害後の急性期に傷害部位からATPが放出・漏出し、これによりミクログリアが活性化する(B)。活性化したミクログリアは炎症性サイトカインを放出し、周囲のアストロサイトにその情報を伝える(D、E)。ミクログリアから情報を受け取ったアストロサイトは、P2Y1受容体の発現を低下させることで、脳保護型の反応性アストロサイトに変身。この反応性アストロサイトは、突起を延ばすなどの運動性を亢進させ、グリア瘢痕様の構造を形成し、TBIの二次性の神経傷害に対して保護的な作用を示す (出所:山梨大学Webサイト)