米英独の国際研究チームは、エタンから高純度の単層グラフェンを直接合成する手法を開発した。安価なエタンからグラフェンを簡単に合成する方法として注目される。研究には、米国ジョージア工科大学、英国スコットランドのセント・アンドルーズ大学、ドイツのミュンヘン工科大学が参加した。研究論文は、物理化学専門誌「Journal of Physical Chemistry C」に掲載された。

エタンからのグラフェン合成プロセス。段階的な加熱によって、一次元の炭化水素鎖が交差して二次元状になり、さらに円盤状のクラスター構造を経てグラフェンが生成される(出所:ジョージア工科大学)

エタン(C2H6)は炭素数2の有機化合物であり、アルカン分子の中ではメタンの次に単純な構造をもつ。メタンとともに天然ガスに多く含まれる成分であり、エチレンの原料としても使われている。

今回の研究では、エタンガスを段階的に加熱していくと、700℃を少し超えたところで、ロジウム触媒基板上に高純度の単層グラフェンが成膜されることが確認された。

メタン(CH4)を炭素源とする化学的気相成長法(CVD)では、基板に銅箔を用いた場合に低圧条件下で単層グラフェンが生成されることが報告されているが、メタンよりも炭素数の大きなエタンを使うと、通常はグラフェンが何層にも重なった多層グラフェンが生成される。エタンから単層グラフェンを直接合成したのは今回がはじめてであるとする。

加熱を段階的に行ったこと、加熱温度をこれまでの研究よりも高くしたことなどが成功要因として挙げられている。

加熱にともない、カップリング反応によってロジウム触媒基板上にエタンが吸収され、一次元鎖状の多環芳香族系炭化水素(1D-PAH)が形成される。加熱を続けると、一次元体同士が交差した二次元構造の形成がはじまる。一定温度(約400℃)まで加熱すると、炭素原子24個からなる円盤状の構造が観察される。この状態からさらに段階的に温度を上げることで、円盤が拡大して近くの円盤とつながり、大面積のグラフェンが生成されるという。

加熱にともなう脱水素化のプロセスもグラフェン生成に重要な役割を果たしていると考えられている。脱水素化によってエタン中の炭素が解放され、グラフェンを生成する炭素源となるが、このプロセスのあいだも水素の一部は一時的に金属触媒表面付近に残っている。これらの水素には、解放された炭素が24個1組の孤立した円盤状のクラスターを形成するのを促す作用があるとみられている。

メタンやエタンなどの炭化水素前駆体が拡散癒合してグラフェンが生成されるメカニズムの解明につながる研究成果であるといえる。今後の課題としては、エタンから生成したグラフェンを金属基板上から別の基板に転写する方法を開発することで、グラフェンの応用範囲を広げることが挙げられている。