慶應義塾大学(慶大)は8日、座った状態でのCTスキャンを実現する「全身用320列面検出器型立位・座位CT(以下立位・座位CT)」の開発に成功し、臨床研究を行うことを発表した。

この装置は2017年3月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)により認証され、2017年4月に慶應義塾大学病院において第1号機として導入。5月以降臨床研究が開始される予定となっている。

立位・座位CT外観写真 (左)架台上部、(右)架台下部

「立位・座位CT」は、同大学 医学部放射線科学教室の陣崎雅弘教授らが、医学部の名倉武雄特任准教授、理工学部機械工学科の荻原直道教授と共同し、東芝メディカルシステムズ(東芝メディカル)をパートナーとして開発したものだ。構想から4年の歳月をかけて完成したもので、同大学によれば臥位以外の姿勢で利用できるCTスキャン装置は「世界初」となる。

CT(X-ray Computed Tomography)は1970年初頭に登場して以来、多くの疾患の診断に活用されているが、従来のCTは横たわっている姿勢のみでしか撮影できない。これは、CTスキャンの撮影時間に時間がかかるため、静止状態を保てる臥位でないと撮影が不可能だったことによる。このため、起き上がると増悪する病態や立位・座位でしか行えない機能の評価は行うことができなかった。

転機となったのは、2007年に登場した「面検出器型320列CT」。この装置を利用することで、最速モードでは全身を数秒で撮影することが可能になった。この時点で陣崎教授は立位でも静止状態を保てる時代に入ったと判断したという。

「立位・座位CT」は、従来のCTで縦置きになっていたガントリ(架台)を横置きにし、上下動をさせることで、立位・座位での撮影を実現している。特に、姿勢保持のための用具や座位撮影を可能にする座位撮影補助具を開発し、円滑な検査フローを組み立てたという。320列の面検出器により、一回転あたり最速0.275秒のスキャン時間で、最大160mmの幅を0.5mmスライス厚で撮影できる。

これまでもコーンビーム型のX線装置を用い、1回転あたり数秒程度かけて体の一部を立位で撮影し、骨などの硬組織の構造を評価することは可能だった。しかし、全身を撮影することはできず、また臓器や筋肉などの軟部組織の評価も困難だった。

一方、今回の装置では全身撮影が可能で、軟部組織の評価も可能。また、高速回転が可能な面検出器を用いているため、同一部位を連続撮影することで、立位・座位での臓器や脊椎・関節の動態情報を収集できる。

今後、荷重がかかることにより明らかになるような四肢・脊椎の運動器疾患、ヘルニア・臓器脱、立位・座位でしか評価できない呼吸機能・循環動態、形成再建術の術前評価、さらには歩行機能など、多様な病態を評価していく。