注目バンド"パスピエ"が表現する音楽とアート、その背景とは

注目バンド"パスピエ"が表現する音楽とアート、その背景とは

自らのバンドの性質を"印象派"と称し、音源やライヴだけではなくMVやジャケットのアートワークなど、多角的な表現を展開するロックバンド・パスピエが、今注目されている。

さまざまなジャンルが入り混じった音楽に独特な歌詞とメロが乗った楽曲は、一度聴くと頭から離れない不思議な引力を持っている。クラシック畑からロックへと転向した経緯をもつメイン・コンポーザーの成田ハネダ(Key)と、ジャケットやMVのアートワーク、歌詞を一挙に手掛ける芸術畑出身の大胡田なつき(Vo.)の出会いからスタートしたというパスピエだが、その時どんな化学反応が起きたのか。それぞれのバックグラウンドからバンドの成り立ちをたどることで、その引力の秘密に迫ってみた。
 

-今年1月にリリースされた『&DNA』という作品を聴いて、まず第一印象として良い意味で掴みどころがないバンドだな、と思ったんです。
 
成田ハネダ(以下 成田):掴みどころがないというのは、僕ら自身まだ模索中だからかもしれないですね。この5年間のなかではオリエンタル感みたいなのを推していこうという時期もありましたし、もっとライヴソングをいっぱい作っていこうみたいな時期もありましたし。その時々のベクトルによって曲調がガッツリ変わるんです。
 
―音楽的なバックグラウンドで言うと、どういうところなんですか?
 
大胡田なつき(以下 大胡田):私は主に母親が聴いていた音楽ですかね。石田あゆみさんとか、昭和の歌謡曲。それが音楽に興味を持つはじまりでした。今のパスピエの音楽にしても曲の世界観がそのあたりの時代だったり、歌詞に普段使わないような古典から引用してきた言葉をよく入れていたりしているので、そういうところに影響していると思います。
 
―そういえば歌詞もすべて日本語で構成されていますね。
 
大胡田:やっぱり私は日本人だし、それの方が真実味があるというか、借りてきた言葉ではない気がして。表現において自分の中からちゃんと出てくるものを使いたいと思っているので。
 
―歌詞のアイディアは具体的にどういうところから出てくるんですか?
 
大胡田:最近はバンドの音とメロディから浮かぶことが多いです。以前は昔から書きたかった題材から持ってきたりしていたんですけど、やっぱり今を生きていて感じたことを書くというのは自然な行為だと思うので、今回のアルバムとかは本当にその手法がほとんどです。たとえば『夜の子供』という曲は、漂っている闇の感じの音だったので、そこから広げていって。全然怖いものではないんだけど、ちょっと妖しさもある。子供の頃とかって、夜になると怖いけどワクワクしたり、ちょっと夜更かししてみたいなって思ったりしたじゃないですか。そういうイメージで書きました。
 
―パスピエの歌詞は世界観がしっかりしているというか、まるで短編小説や映画のような情緒がありますよね。そういえば、MVも大胡田さんが手掛けていらっしゃるとか。
 
大胡田:最初の頃の『電波ジャック』や『トロイメライ』あたりは私が全部絵を描いていたんですけど、最近は割と松本さんという監督さんにお任せしています。パスピエをすごく理解してくれていて、勝手に伏線張ってくれてたりとか(笑)、自分が思っていないところでパスピエを表現してくれてたりするんです。映像を撮ってくれる人もアーティストみたいな感じで、私が言ってやってもらうというよりも、一緒に作り上げていく感じですね。
 
-なるほど。では、成田さんの音楽のバックグラウンドは?
 
成田:もともとはクラシックです。ピアニストを目指していたんですけど、その途中でバンドをやってみたいなと思うきっかけがいくつかあって、それで始めた感じでした。今の音楽のルーツでいうと、ニュー・ウェーヴとか。キーボードをやっているというのもありますし、いろいろクラシックとつながる部分もあったりとかして。バンドで言うとYMOだったり、そういうシンセを使ったレジェンドの音楽を洋邦問わず聴いていました。
 
―そこをロックに昇華させるきっかけは何だったんですか?
 
成田:時期によっていろいろあるんですけど、まず、そもそもロックをやってみたいと思ったのはフェスを観に行ってバンドに憧れたというのが理由で、あとパスピエとしてもっとロックサウンドというものを意識してみようと思ったのは、やっぱりこういう形式の女性ヴォーカルバンドなので"ロックをやっているバンド"として見られない時期がすごくあって。別にそれが嫌だったわけではないんですが、自分たちとしてはロックバンドをやっているつもりだったので、パスピエとして出来るロックというものを考えて意識して曲を作ったりしていました。
 
―初期はもっとピコピコした感じだったとか?
 
成田:はい。ストリングスを入れてオーケストラアレンジした曲があったり、基本的にシンセの音をダビングしているので、音数が少ないソリッドなバンドサウンドというところとは結構真逆の路線だったかもしれないです。
 
―そもそも、ロックバンドの何にそこまで惹かれたんでしょう? そのままクラシックでやっていく選択肢もあったわけで。
 
成田:そこに対してあまり言及したことがなかったんですけど、やっぱり曲作りというところかもしれないですね。クラシックっていうのは作曲家が作った曲をいかに自分なりに表現するかという世界なので、結局世の中の人にとって有名なのはベートー・ベンやショパンなどの作曲家であって、演奏者の名前ってどれだけ頑張っても職人的にしか捉えられない。そんななかロックバンドのライヴを見て、自分が作った曲を自分でこんなに自由に表現できる音楽の場があるんだというところにすごく惹かれました。あとは、基本的にピアノって一人で完結してしまう楽器なので、バンドじゃないと出せないグルーヴ感だったりサウンド感、歌の説得力の強さだったりとか、そういういろんなことが未知の体験で驚かされましたね。
 
―自分で表現したい欲求がずっとあったということですね。
 
成田:そうですね。"このままでいいのかな"みたいな思いはずっとあったので、そこが見事に合致したというか。
 
―なるほど。それで、2人はどういう感じで出会ったんですか?
 
成田:僕は僕で"バンドやってみたい!"と思って友達の友達だったりとかの繋がりでメンバーを集めてバンドを組んでいて、大胡田も自分のバンドを組んでいて。
 
―どんな経緯で一緒にやることに?
 
成田:その時やっていたバンドでは、自分が考えている音楽的なことやものの捉え方に対して"そうだよね"って共感してもらえる部分もあるけど、やっぱり視点が全然違うところにあると感じていて、なんか自分だけで完結させなくちゃみたいなところがあったんです。でも、そこに同じ視点を持った第三者が新たに加わればもっと面白いことができるんじゃないかと思って、彼女に声をかけてみました。
 
大胡田:話をもらった時に、クラシックの印象派を取り入れたロックをJPOPでやりたいと言っていて、私も絵画の印象派の考え方がすごく好きだったので、割とそこが自分の中ではキーワードでしたね。あと、成田さんとスタジオに入った時に"これだけピアノが上手かったら絶対どうにかなるだろう"って思ったというのもあります(笑)。こんな自在に音を操る人と一緒にやったらすごいことになるんじゃないかなと。
 
―その"印象派"というのはパスピエを知るうえでも重要なキーワードだと思うのですが、それって具体的にどういったことなんですか?
 
成田:音楽的な意味での印象派というのはフランスを起源とした、以前あったものを踏襲しながらどんどん新しいものに取り組んでいった時代の曲たちのことで、それが源流になってジャズが生まれたとも言われています。世界のあらゆる音楽を取り入れていて、それこそ日本のオリエンタルな部分を取り入れた曲もあったりして最初は"この聴いたことない音楽はなんだ"みたいな印象なんだけど、それを紐解いてみると既存のコードや形式を複雑に入れ替えたり重ね合わせたりして滲ませている。例えばジャズを聴いた時に、なんか分からないけどオシャレだなって思うじゃないですか。
 
―カフェやレストランでかかってそうな。
 
成田:そうそう。じゃあそのオシャレ感って何? っていうところを紐解いていくと"こういうことか"みたいな、そういう音楽の作り方ですね。僕はやっぱり音楽はつねに地続きであるという考えで、バンドにおいてもこれは誰々に影響を受けているんじゃないかとか、そういういろんな繋がりがあるものだと思うんです。
 
―なるほど。最初にパスピエに対して思った掴みどころがないという印象は、そういうところだったのかもしれないですね。アートの印象派も同じような定義なんですか?
 
大胡田:絵の方だと、その瞬間を描き出す手法の作品のことを印象派というんです。肌の質感とかにすごくこだわって何日も何カ月も描き込んでいくような写実主義ではなくて、本当にその場所にあった光とかをそのまま描く、その瞬間を切り取るみたいな。光の色みたいなのを乗せていくので、ちょっと滲んだというかボンヤリした感じの全体像にはなるんですけど。そういう意味で、自分のつくる音楽とか歌詞の世界も一瞬を切り取って描いていけたらと思って取り組んでいるので、そのキーワードに共感できたというか。音楽の印象派との定義は違っていてもどこか似ているような感じがするし、その2つの考え方を融合したらなかなか面白いんじゃないかなと思って。
 
―うん、実際面白いことになっていると思います。いろんな要素が入って滲んで、聴いたことのないようなものに仕上がっている。でも、パスピエの楽曲は歌メロがキャッチーだからそれが変に気にならないですよね。ここが変わると一気にとっつきづらい曲になりそうだけど、後ろが変態的なことをやっていてもメロで中和されているというか。
 
成田:そこはとてもこだわってます。自分の中のルールとして、どんなにエモーショナルでアッパーな曲も、バラードとして演奏しても通じるようにするというのがあって。要は分かりやすさということなんだけど、エゴと評価されることって表裏一体で、もちろんやってみたいことはたくさんあるけど自分だけがよければいいということになっちゃうとそれは違うなと思うので。僕らができることで周りの人も面白いと思ってくれることって何だろうというのはずっと考えてはいますね。
 
―うまくエゴと評価の中間みたいなところを縫っていくような。
 
成田:そうですね。やっぱり芸術って、音楽だけじゃなくてアートとかも全部そうだと思うんですけど、人が見たり聴いたりして初めて成立するものだから。スポーツとかもお客さんがいて成り立つのかもしれないけど、記録自体は個人でも作れるものじゃないですか。でも、アートの場合は周りが見て初めてそこでスタートするものだから・・・って思うんです。
 
―それには、聴き手に寄せる部分も必要であると?
 
成田:それは難しいところで、寄せるというよりは引き込みたいんです。この先活動が大きく広がって自分思っていることと評価のされ方が近くなってくれば、こういうこともやってみようかな、とか思えるだろうし。その段階まで行き着くには、もうちょっといろいろ試さないとなとは思っています。
 
―そういえば、ライヴの客層ってどんな感じなんですか?
 
成田:男女半々かな。年齢層とかも若い子ばっかりというわけでもないですし。女性ファンは割と若い方が多くて、男性ファンはおじさまとかもいる。
 
大胡田:結構前の方にも男性のおじさまがいてくれたりして、結構嬉しいですよ。本当にいろんな方が見にきてくださってるんだなと思って。
 
―おじさまたちは、パスピエの曲の中に含まれたニュー・ウェーヴの要素とか、そういう懐かしい感じのところに惹かれているんですかね。
 
成田:そういうのもあるかもしれないですね。それぞれどういうルートで来たのか分からないけど、やっぱり僕らも多くの人に届けたいと思って音楽をやっていますから、いろんな人が来てくれるというのは嬉しいですね。
 
―逆に若い人には何が刺さっているんでしょう?
 
成田:今はフェスという分かりやすい指標があるので、そこがきっかけの人ももちろんたくさんいるでしょうし。あとは何だろう? テレビとかですかね。本当に今の若い子たちというのは、浅さ深さは置いておいて知っている情報量はすごい膨大で、打てば拾ってくれるっていう手応えの受けやすい時代なので、そこはすごく面白いところです。
 
―私が思ったのは、パスピエの楽曲の掴めそうで掴めない感じというか、押し付けがましくないところが今の時代に沿っているのかなと。
 
成田:なるほど。その反面で、パスピエの確固たるサウンドみたいなものをもっともっと作っていかなきゃいけないなと思うこともあるんですけどね。いろんなものが一周して新しいと取ってくれる時代なので、もっと自分が影響を受けてきた80'sニュー・ウェーヴの要素とかも今後はどんどん出していって、そこに平成の時代感が相まって面白くなったらいいなと思います。
 
―さっき、まだ今はエゴを出していく段階じゃないと仰っていたじゃないですか。今後、音楽性がいろんな形に変わっていく可能性もあるということですか?
 
成田:そうですね。今までも変わってきているので、そういうふうにこの先も変わっていくとは思います。そのなかで、アルバムを並べて聴いた時にちゃんと1枚目と最新作が繋がっている形が理想ですけどね。同じ人間で演奏している限りはそういう何かしらの共通項はあると思うし、いろいろ挑戦していきたいな思います。
 

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2017/06/01  香川・高松festhalle
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PASSEPIED
パスピエ 2009年結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)、成田ハネダ(Key)、やおたくや(Dr)。バンド名はフランスの音楽家ドビュッシーの楽曲が由来。卓越した音楽理論とテクニック、70s〜00sまであらゆる時代の音楽を同時に咀嚼するポップセンス、ボーカルの大胡田なつきによるMusic Clipやアートワークが話題に。11年に1stミニアルバム『わたし開花したわ』でデビュー。その後数々の大型ロックフェスにも出演し、対バン形式の自主イベント"印象"シリーズやワンマンツアーを行い好評を博す。17年1月に最新アルバム『&DNA』をリリース。
http://passepied.info/


本記事は「ローリングストーン」から提供を受けております。
著作権は提供各社に帰属します。

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