理化学研究所(理研)は5月2日、マウスを使った実験で、バーチャルリアリティ(VR)空間の目的地の認識には、海馬の活動と自閉症関連遺伝子のひとつ「Shank2」の働きが重要であることを発見したと発表した。
同成果は、理研 脳科学総合研究センター 佐藤正晃客員研究員らの研究グループによるもので、5月2日付けの米国科学誌「eNeuro」オンライン版に掲載された。
近年、霊長類以外のマウスやラットなどの小動物でもVRを認識できることが明らかになってきている。今回、同研究グループは、マウスのVRの認識メカニズムを明らかにするために、頭部を固定したマウスがトレッドミルという歩行装置上を走ることで、液晶モニタに提示されたVR空間を探索するようなマウス用VRシステムを構築。このVR空間内の目的地に一定時間留まると報酬がもらえる新しい行動課題を考案した。
まず、VR空間の視覚的な特徴を操作することで、目的地に付けられた目印がマウスの空間認識に重要であることが明らかになった。そして、海馬の活動がこの目的地の認識に関わっているかどうかを調べるために、シナプスの伝達を阻害する薬物を海馬に注入する実験を実施。海馬の活動がVR空間の目的地の認識に必要であることが証明された。さらに、Shank2遺伝子を欠損したマウスは、この目的地の認識を学習できないことがわかった。
上記の結果は、マウスにおけるVR空間の認識には、実世界の空間認識に似た海馬に依存したメカニズムが働いていること、また、その学習にはシナプス後部のタンパク質複合体形成を介してシナプス伝達とその効率の変化を支えているShank2タンパク質が必要であることを示しているといえる。なお、「ヒトの自閉症患者はVRを認識できない」ということを必ずしも意味しないということには注意が必要だ。
同研究グループは今回の手法について、二光子レーザー顕微鏡を用いたカルシウムイメージングを組み合わせ、正常マウスと疾患モデルマウスの神経回路の働きを比較することで、従来の手法では見つけることができなかった微細な脳の病変が明らかになることが期待されると説明している。