米国立バークレー研究所は、クロム-ゲルマニウム-テルル化合物の二次元薄膜が強磁性を有することを発見したと発表した。ナノスケールのメモリ、スピントロニクスデバイス、磁気センサなど、強磁性材料を利用する分野への幅広い応用が期待される。研究論文は、科学誌「Nature」に掲載された。
物質を二次元状態まで薄くしたときにその物質の磁性が存続するかどうかは、長らく量子物理学上の問題となってきた。Mermin-Wagnerの定理によれば、二次元材料が磁気異方性(材料中の電子のスピンが特定方向に配向していること)を欠いている場合には、磁気的な秩序はなくなるとされる。
今回研究対象となった磁性半導体クロム-ゲルマニウム-テルル化合物(CGT: Cr2Ge2Te6)の二次元薄膜には、磁気異方性がもともと備わっており、このため実際に強磁性を検出することができたと考えられている。
研究チームは、バルクのCGTに粘着テープを貼って剥がす処理を行い、3000個超のCGT二次元薄膜を剥離した。これらの二次元薄膜の磁性を、磁気光学カー効果と呼ばれる現象を利用した手法で検出した。磁気光学カー効果は、磁性体の表面に直線偏光した光を当てたときに、光が材料中の電子のスピンと相互作用することにより、円偏光の反射光となって返ってくる現象である。
今回の研究では、CGT二次元薄膜における磁気異方性が非常に小さなものであることがわかったという。このため、材料から強磁性が消失する温度(キュリー温度)が容易に制御できるという特徴がある。通常、キュリー温度は物質に固有な値であって、これを変化させることはできないと考えられている。一方、CGTでは、磁束密度が0.3テスラ以下という非常に小さな磁場をとるため、実際にキュリー温度を変化させられることが実証されている。
鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性材料は、薄膜状にしても二次元系にはならず構造的に不完全であり、さまざまな外乱要素からの影響を受けやすい。このため、磁気異方性は巨大で、また予測困難な状態となるため、磁場の制御は難しい。これに対してCGTの場合は、グラフェンに似た二次元薄膜がファンデルワールス力で結合した積層構造になっているため、これを剥離した二次元系でキュリー温度の変化による磁場制御が可能になるという。
二次元薄膜材料の特徴の1つとして、薄膜の種類が違っても、ファンデルワールス力を利用して容易に結合させることができるという性質がある。研究チームは、この性質を利用して異なる二次元薄膜同士を組み合わせることによって、さまざまな磁気-電気、磁気-光学的応用が可能な人工的構造を設計できるだろうと指摘している。