九州大学(九大)は4月29日、紫外線励起による30msの有機薄膜レーザーの連続発振に成功したと発表した。これは従来の報告の100倍以上の寿命であり、世界最長寿命を達成したことになるという。

同成果は、九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター 安達千波矢教授らの研究グループによるもので、4月28日付の米国科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。

有機薄膜レーザーは、無機レーザーでは実現が困難な可視域から赤外域全域にわたる広範囲の波長を任意に発振できるという特徴があり、将来の光通信やセンシング、ディスプレイなど幅広い分野への応用が期待されている。

有機薄膜レーザー発振は、有機レーザー活性層に含まれる有機レーザー分子を紫外線で励起し、それによって発生する吸収エネルギーが発光に変換され、さらに同じ波長の光が増幅された後、光共振器によるフィードバック効果によって起こる。従来のデバイス構造では、有機分子によるレーザー光の吸収や有機レーザー活性層での熱劣化および光損失が大きく、有機薄膜レーザーの連続発振時間は大きく制限されていた。

今回の研究ではまず、有機薄膜レーザーの発振を阻害する要因の除去に取り組んだ。具体的には、レーザー動作中に蓄積される寿命の長い三重項励起状態によって、光が吸収されてしまうという重大な課題があったが、三重項励起状態の吸収スペクトルとレーザー発振スペクトルの重なりが十分に小さい有機レーザー分子をレーザー活性層に用いてレーザー光の吸収を減らすことにより解決した。

次に、熱劣化を抑制するため、有機薄膜レーザー素子の下層基板として放熱性に優れた単結晶シリコン基板を、上部保護層として高分子材料を薄く接着したサファイアガラスを用いることでカプセル化した。また、光共振器構造として最適化を行ったDFB構造を用いることで光損失を抑制し、従来報告されている有機レーザー発振閾値としては最も低い値を実現。以上の条件を揃えることで、30msに達する連続レーザー発振に成功した。

同研究グループは今回の成果について、外部エネルギーとして電流を用いて励起状態を形成させる「電流励起型有機半導体レーザー」を実現するための重要な一歩を踏み出したものと説明している。

紫外線励起による有機薄膜レーザーの発振状態の写真、および1次と2次のDFB構造を含有するレーザー素子構造の光学顕微鏡像と電子顕微鏡像 (出所:科学技術振興機構Webサイト)