大阪大学(阪大)は4月27日、ゲルマニウム(Ge)中のスピン流伝導におけるスピン散乱現象の詳細を明らかにしたと発表した。

同成果は、大阪大学大学院基礎工学研究科 浜屋宏平教授、東京都市大学総合研究所 澤野憲太郎教授らの研究グループによるもので、4月14日付けの米国科学誌「Physical Review B」に掲載された。

Geは、電子・正孔の移動度がそれぞれシリコン(Si)の2倍・4倍ということで、Siに代わる次世代の半導体チャネル材料として期待されており、既にGe-CMOSと呼ばれる半導体のコア技術も開発されはじめている。さらに、このGe中に電子のスピン自由度を電気的に注入し、不揮発メモリ機能を付加しようというスピントロニクス研究も展開されている。

しかし、過去にGe中のスピン伝導を低温で観測した結果が報告されて以来、スピントロニクス分野で重要である強磁性体を構成する遷移金属とGeとの相性が悪く、スピントロニクス素子を作製する技術的なハードルが高いことなどから、そのスピン伝導の観測を高い信頼性で実証する研究グループは少なかった。

これまでに同研究グループでは、強磁性ホイスラー合金という高性能なスピントロニクス材料を、Ge(111)伝導層上に高品質に作製し、純スピン流を生成・操作・検出することに成功していた。今回の研究では、この技術をさらに高度化し、Ge中の不純物ドーピング量を意図的に変化させた複数の素子を用いて、純スピン流伝導を高感度に検出。この結果、Ge中のスピン伝導が、不純物原子がつくるスピン軌道相互作用を介したポテンシャルの影響を受けて散乱されることを実験的に突き止めた。

スピン寿命(反転時間)と不純物濃度の関係。不純物のドーピング量がわずかに異なるだけで、スピン寿命は1桁変化する。Ge中でスピンを利用するためには、不純物ドーピング量を精密に制御することが重要 (出所:阪大Webサイト)

今回明らかになった物理現象の概念図。Ge(母層)中にリン(P)などの不純物がドーピングされると、Ge伝導層中にポテンシャルの変化を生成し、その影響を受けてスピンが散乱される (出所:阪大Webサイト)

同研究グループは今回の成果について、最近提案された理論と整合するものであり、Geスピントロニクス素子の実現に向けた重要な物理が解明され、半導体素子の高速化と低消費電力化に近づいたことを意味していると説明している。