京都大学(京大)は4月25日、金属イオンと有機物からなる結晶中で、イオンの流れを光でスイッチングできる新たな材料の合成に成功したと発表した。

同成果は、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点 堀毛悟史准教授、北川進拠点長・教授、フランス国立科学研究センター オード・デメッセンス研究員らの研究グループによるもので、4月10日付のドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

固体中でさまざまなイオンを伝導・輸送する物質である固体イオン伝導体は、携帯電話の電池や、水素ガスと酸素ガスから電力を作る燃料電池を搭載した車の性能や安全性の向上に必須の材料となる。イオン伝導体は、ある温度で電圧を加えるとイオンを流し始めるが、電圧だけではなく、光のような刺激によってイオンの流れを任意にスイッチできれば、電池用途にとどまらないデバイス応用の可能性が生まれると考えられる。

そこで今回、同研究グループは、新たなイオン伝導性材料である「配位高分子」を用い、スイッチング特性をもつイオン伝導体の合成を検討した。

光に応答するイオン伝導性を固体中に持たせるには、固体全体においてイオンが伝導できる特性と、光に応答してその伝導の流れを変えられる分子の両方が存在する必要がある。同研究グループは、数多くの配位高分子のなかから、亜鉛イオン(Zn2+とリン酸(H3PO4)、イミダゾールが結晶中でネットワークを組む結晶に着目。同結晶は構造の内部に、多くの動きうるプロトン(H+)を持っており、160℃で安定な液体となる。

同研究グループはこの融解現象を利用し、光の刺激によってプロトンを放出・再結合する「ピラニン」と呼ばれる有機分子を配位高分子の溶液中に分散させた後に冷却することで、ピラニン分子を結晶全体に分散させた光応答性イオン伝導体の固体材料の合成に成功した。

合成した固体材料に光の照射を行うことにより、内部のピラニン分子がプロトンを結晶中で放出し、固体全体のプロトン伝導度が上昇した。光の照射を止めることで放出されたプロトンはピラニンに再結合し、プロトン伝導度も元の値に戻るという。合成材料の見た目は光照射の有無にかかわらず固体のままだが、イオン伝導のスイッチングは安定かつ可逆的に行われることが確認されている。

同研究グループは今回の成果について、不揮発性のメモリや電気を蓄えるコンデンサ、光駆動するトランジスタなどの研究開発に大きく貢献するものと説明している。

(a)プロトン伝導を示す配位高分子結晶の構造と光によってプロトンの放出・補足を示すピラニン分子 (b)ピラニンをドープした配位高分子試料において光照射をオン/オフしたときのプロトン伝導スイッチング特性 (出所:京大Webサイト)