東北大学と東京大学は4月21日、鉄カルコゲナイド超伝導体の薄膜の超伝導と構造相転移との競合関係を直接的に明らかにすることに成功したと発表した。

同成果は、東北大学大学院理学研究科物理学専攻 今井良宗講師、東京大学大学院総合文化研究科 前田京剛教授、鍋島冬樹助教らの研究グループによるもので、4月21日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

鉄カルコゲナイド超伝導体FeSe1-xTexは、鉄系超伝導体の物質群のなかで最も単純な結晶構造をとることから、同物質群の超伝導機構を解明するうえで極めて重要な物質として注目されている。ところが鉄カルコゲナイド超伝導体には、特定の組成領域において相分離が存在するために、組成を連続的に制御することはできないと考えられており、研究の障害となってきた。

しかし2015年に、薄膜作製の手法を用いることで、相分離を抑制することが可能であり、全組成領域の試料を作製できることが判明。この超伝導転移温度相図には、他の鉄系超伝導体には見られない不連続な飛びが見られ、その振舞いは鉄カルコゲナイド超伝導体の超伝導を理解する鍵になるものとして注目されていた。

今回、同研究グループは、アルミン酸ランタンとフッ化カルシウムの2種類の基板上にFeSe1-xTex薄膜を作製した結果、最も高い超伝導転移温度が得られるテルル量(x)が基板によって異なること、その最適なテルル量付近で共通して超伝導転移温度に不連続な飛びが存在することを発見。さらに電気抵抗率の温度依存性を精密に測定した結果、ちょうど最適なテルル量付近では、構造相転移が消失していることも明らかになった。

この結果は、超伝導転移温度相図における不連続な飛びの起源が構造相転移にあることを明確に示すものであり、超伝導と構造相転移とが競合関係にあることが明らかになったといえる。同成果について、同研究グループは、鉄カルコゲナイド超伝導体、そして鉄系超伝導体のメカニズム解明に繋がることが期待されると説明している。

アルミン酸ランタン(LaAlO3:LAO)とフッ化カルシウム(CaF2)基板上に作製した鉄カルコゲナイド超伝導体FeSe1-xTex薄膜の温度-組成相図。Tsは構造相転移温度、Tcは超伝導転移温度。上付き文字のBulkは、バルク試料を意味している。バルク試料ではテルル量が0.1~0.4の領域は相分離のために、試料を作製することができない (出所:東北大学Webサイト)