『3月のライオン』後編:大友啓史監督が分析する神木隆之介の魅力

『3月のライオン』後編:大友啓史監督が分析する神木隆之介の魅力

稀代の実力派、大友啓史監督と俳優・神木隆之介が語る、映画『3月のライオン』で目指した"一歩先"の風景とは?

3月はライオンのように荒々しい気候で始まり、子羊のように穏やかに終わる——。

この春の訪れを表現した英国のことわざにあるように、ベストセラーコミックの実写映画化『3月のライオン』後編は、主人公・桐山零が数々の試練に晒され荒々しい闘いが続いた前編に比べて若干穏やかなトーンで始まり、原作では描かれていない未知の領域へと突入していく。しかし、子羊のような穏やかな季節が続くかと思いきや、大切な人たちを守るための新たな闘いが、零を待ち受けていたのだった。

日本映画界に衝撃を与えたアクション映画『るろうに剣心』での出会いから数年。大友啓史監督と神木隆之介が再びカメラ越しに顔を突き合わせ、共に挑んだ子羊の皮を被った猛猛しい映画『3月のライオン』を語る。


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

—最初、原作漫画のビジュアルを見て、「このほっこり青春映画を大友監督が?」とびっくりしたのですが、蓋を開けてみたら「なるほど!」と納得しました。まさに"闘い"の映画でしたね。

大友監督:実は僕もこの話をもらった時、「なんで俺にきたのかなって?」って思いました。「なんだ、このパステルカラーの絵は!」って(笑)。でも読んでみたらまさに"斬り合い"の物語で、やりたいって思ったんですよね。

—命をかけた盤の上の一騎打ちですよね。

大友監督:本当にそうです。冒頭のシーンは、神木君演じる主人公、桐山零と彼の義理の父(豊川悦司)との戦いで始まるんですけど、その試合後、零が家に戻ってある父殺し事件のニュースをラジオで聞くじゃないですか? どんな物語もだいたいテーマから始まると思うんですけど、漫画もあのエピソードから始まってるんですよ。つまり零は、お父さんを将棋で負かして、「お父さんを殺しちゃった」と思って涙を流すんです。これはかなり苛烈な話だなと思ったんですよ。

一見、零は飄々として見えるかもしれないけど、心の奥底にライオンを飼っている。「他人の子供を蹴落として僕は生き残ってきた」っていう零の過去のエピソードも含め、「俺はライオンだ」ってことなんです。これは勝負師の青年の話。その勝負師の卵がどうやって成長していくかっていう話だから、すごく苛烈な物語なんですよ。

—そんな子羊の皮を被ったライオンの神木さんは、どのように桐山零という役を捉えていたのですか?

神木:確かに最初はおとなしい子羊のイメージでしたが、原作を読んで役作りをしているうちに、「零は子羊ではない」と気づきました。プロ棋士として盤に向き合う。そのような吹き飛ばされない力がある人なんです。

それに、零は原作でも表情がとても豊かなんです。"それではなぜ最初に静かなイメージを持ったのだろう"と考えると、それは彼が醸し出す孤独の影響なんです。そこから儚かさや静けさを感じていました。

どれくらい話せばいいのか、どれくらい笑えばいいのか。思い描いているだけではなくそれを表現する時の、その微妙な塩梅は難しかったです。その時はアニメも放送してなかったですし、零がどのような声で話すのか、どのように泣くのか。そのような人物に落とし込む作業はとても難しかったです。


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

—前編は原作に忠実に沿った形で進行しますが、後編では原作ファンにとってもまだ見たことのない景色が広がっていきますよね。原作の先を描くにあたり、監督はどんな筋道を考えていたんですか?

大友監督:漫画って、本筋のストーリーからそれて、脇のエピソードで脇のキャラクターを立たせる回など、色々な武器、攻め方ができるメディアだと思うんですよ。連ドラに近い要素があるけど、物語性が薄まることも時として許されるし。でも、映画という2時間の尺で一気に見てもらうとなると、主人公の心の動き、流れを描くために、一つの線路を作らないといけなかった。

零は小学校三年生の時に家族を亡くし、身を寄せる場所もなくて、家族を亡くした悲しみも麻痺するくらいに心細い思いをしていた。そこにプロ棋士の幸田が登場して、「君は将棋好きか?」と聞いてくる。家族として受け入れてもらうために、零は「はい」と嘘をつく。この物語のスタート地点はそこだと思うんです。

なので、彼のその「はい」と言った時の気持ちが、どこかに着地するというのを物語の縦軸にしたかったんです。"嘘から真が出る"じゃないけど、"将棋、好きかもしれない"と晴れやかな気持ちで思えるまで、零が這うように少しずつ前に進んでいくドラマなんです。何かドラスティックなことが起こるわけじゃなくて、零が小さな一歩を進むだけの話。人類にとっては小さな一歩でも、彼にとっては大きな一歩なわけですよ。


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

原作のいいところは、零の成長に関与しない無駄なキャラクターがいないことなんです。物語に登場するメインのキャラクターたちは、零の成長を担う役としてだけじゃなくて、きちんと彼ら固有のバックグラウンドもある。彼らは零に影響を与えようとして生きてるわけじゃなく、彼らには彼らの物語がある。
作り手のご都合で物事を運ばない、それってすごく大事なことなんです。

だから人物たちがこの物語を語っていく、そういうことに極めてストイックに脚本づくりをしてみたんですよ。映画というメディアが語るんじゃなくて、登場人物たちの語りで物語を語る。そういう意味では、今回の脚本づくりは数学的でした。どのキャラクターをどこにどう効率よく配置していくか。その数式を解くのには時間がかかったけれど、数式が解けてからは早かったですね。これだけ原作が完成されてると、原作に寄りかかるたくなる時もあるんだけど、やはり漫画と映画ではメディアとして時間の積み重ね方が違うんです。

零ってすごく孤独だけど、生身の人間として見てしまうと、「この歳で年収700万も稼いで、一人暮らしして、こいつ恵まれてるな。幸せじゃないか」って思われちゃうんですよ。普通、17歳って何をやりたいかわからなくてもがいてる時期。俺も17歳の時は、何がやりたくてわからなくてあくせくしてもがいてましたよ。零は天才の孤独、親を早くに亡くした人にしかわからない孤独を抱えているけど、そこをどう積み重ねていくかに焦点を置きましたね。

神木:撮影の途中から、桐山零というキャラクターは"固定されてない"と思ったんです。僕らも生きていて、例えば友達と話す際に、人によって接し方や話し方が違ったりすることがあると思うのですが、零も人によって色々な距離感、話し方、声のトーンでそれぞれの人物と適度な関係性を保っている。それが人間らしいのかなと思った時に、少し楽になりました。

—なるほど。でも、それほど豊かな表現が求められるってことでもありますよね。

神木:そうですね。僕には義理の父もいないので、義理の父とどう接するかは実際のところわからないですが、僕の中では、適度な関係性をそれぞれの登場人物たちと自然な形で持てたと思っています。"桐山零が生きている"という表現ができたのではないかと思います。

—子供の頃から役者の世界で生きてきた神木さんと、子供の頃から将棋の世界に生きてきた桐山零。共通項もたくさんあると思うのですが、中でも二人が強くシンクロするシーンは、「俺には将棋しかねぇんだよ!」だと思います。「俺には役者しかねぇんだよ!」とも聞こえて、ぐっときました。

大友監督:俺もぐっときましたよ(笑)。


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

神木:漫画からは声が聞こえないので、"零はどのように叫ぶのだろう?"と考えたんです。大きく叫びすぎても零ではない気がしました。大友監督の「桐山と神木は似てると思うんだよね」という言葉をヒントに、自分が零と共有できる部分を考えながら役作りをしました。

僕は、衣装を着ていないと現場にいてもいいのかなと思ってしまうことがあるんです。衣装を着ていないと、何か落ち着かない。「誰かがここにいてもいいと言ったから、ここにいられる」と思うんです。僕にとってそれが現場では衣装だったりします。衣装を着ている時は、ここにいなければいけない理由が出来るので、落ち着きます。

大友監督:あのシーンは舞台も非常に重要でしたね。将棋会館の帰りだから、千駄ヶ谷という場所は決まってる。公園とか橋の上とか良いロケーションはたくさんあるんだけど、それだと景色が抜けちゃう。背景が抜けちゃうと、ヒロイックに見えちゃう。でも零はそうじゃないなと。このシーンは何時で、周りに人は何人いて、そういう設定は結構大事な要素で、あそこはすごい悩みましたね。場所っていうのはこっち(監督)から役者へのボールなんですよ。どういう場所に役者を置くかで、そこに立った時に何かが役者の中に生まれるので。


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

—神木さんをキャスティングした決め手は、桐山零という役との合致性が大きかったのですか?

大友監督:映画『るろうに剣心』の瀬田宗次郎役は、変な感情を忍ばせてぶっ壊れる男だったので、バックグラウンドがあまり描きこまれていなかったんです。だから、ドラマ的なバックボーンを持った役を演じる神木君をすごく撮りたくなった。その次にこの企画が動き出して、ルックもキャラクターと合ってるし、"そういえば俺、小さい頃から神木見てたな。ってことはプロだよな。零に似てるな"って(笑)。結果、良い方に作用したんじゃないかなと思ってます。


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

—神木さんといえば、さまざまな作品で求められる俳優ですよね。その秘密ってなんでしょう?

大友監督:監督と俳優というよりは外側から見た時の見解だけど、"子供の頃から見てる"っていうのは大きいんじゃないかな。なんだか人ごとではない感じがしてくるんですよ(笑)。俺も人の親だけど、自分の子供も同じくらいの年齢で、見守ってきている感じはあるかもしれないですね。

RYUNOSUKE KAMIKI
神木隆之介 1993年、埼玉県生まれ。2005年の『妖怪大戦争』で、第29回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も『桐島、部活やめるってよ』(12)、『バクマン。』(15)など数々の話題作に出演し、若手演技派俳優として認められる。また声の出演でも高く評価され、主人公の声を務めた『君の名は。』(16)は大ヒットを記録。今年8月4日には、映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』も公開される。写真集+DVDブック『Sincérité(サンセリテ)』が発売中。

KEISHI OTOMO
大友啓史 1966年、岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒業。1990年にNHK入局、1997年から2年間L.A.に留学し、ハリウッドで脚本や映像演出を学ぶ。帰国後、NHK連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01~04)、『ハゲタカ』(07・NHK)、『白洲次郎』(09・NHK)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)などの演出、映画『ハゲタカ』(09)の監督を務める。 2011年にNHKを退局し、株式会社大友啓史事務所を設立。『るろうに剣心』(12)、『プラチナデータ』(13)を手掛ける。2部作連続公開した『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)が2014年度の実写邦画NO.1ヒットを達成すると共に、ファンタジア国際映画祭観客賞、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞、日本アカデミー賞話題賞など国内外の賞を獲得し、世界的にその名を知られる。その後も、『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『ミュージアム』(16)と話題作を立て続けに監督する。


『3月のライオン』
監督:大友啓史
出演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶ほか
http://www.3lion-movie.com/
前編、絶賛公開中。
後編、4月22日(土)より全国ロードショー。


本記事は「ローリングストーン」から提供を受けております。
著作権は提供各社に帰属します。

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