『イップ・マン 継承』:川井憲次が迫力のバトルシーンを盛り上げる音楽の秘密を解説

『イップ・マン 継承』:川井憲次が迫力のバトルシーンを盛り上げる音楽の秘密を解説

伝説のカンフー・スター、ブルース・リーが、その生涯で唯一師匠と呼んだ武術"詠春拳"の達人イップ・マンを描いた待望のシリーズ最新作『イップ・マン 継承』が遂に日本上陸。

伝説のカンフー・スター、ブルース・リーがその生涯で唯一、師匠と呼んだ武術"詠春拳"の達人イップ・マンの人生を『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で注目を集めるドニー・イェン主演で描き、中国で驚異的な大ヒットを記録した"イップ・マン"シリーズ最新作『イップ・マン 継承』がいよいよ日本上陸。迫力あるファイトシーンをさらに盛り上げる音楽を生み出した川井憲次に、その裏話を聞いた。


(C) 2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd. All Rights Reserved.

—『イップ・マン』シリーズも3作目ということで、心がけたことはありますか?

前作の空気感を踏襲したいと思っていたので、メインテーマやサブテーマのメインモチーフはそのまま使って、空気感を持続させたいなと思いました。

—『イップ・マン』シリーズは全体的に音楽のボリュームが大きめになっているように感じるのですが。

音量に関しては、僕は一切いじっていないので、きっと現地のミキシングでやっているんだと思います。でも確かに向こうの映画は音楽の音量が大きいような気がします。それはうれしいことなんですけどね。日本の映画だと、銃声や爆発音がビックリするほど大きいのに、音楽が小さいことがあります。

—『イップ・マン』シリーズは、音楽もバトルのひとつであるような気になります。

そうですね。イップ監督もそういう風に捉えてくださっているみたいですね。それは音楽家にとってはうれしいことですよ。なるべく音楽は出してほしいですからね。

—『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』の時にウィルソン・イップ監督と初めてタッグを組んだんですよね?

ツイ・ハーク監督の『セブンソード』という映画をやった時に、イタリアでパーティーがあって。その時にドニーさんから「憲次さんにやってもらいたい映画がある。監督を紹介するね」と言われて。その後、香港に行って会ったのがイップ監督だったんですよ。

—『イップ・マン』は、カンフーの迫力はもちろんのこと、人間ドラマも実にいいですね。

やはり監督のセンスがいいんですよ。僕はイップ監督のセンスはすごく好きですね。名前が紛らわしいですが(笑)。

—川井さんは、実際の映像を観てイマジネーションを膨らませるタイプだと伺いましたが。

最初から音楽を作ることはあまりないですね。まず映像を観てから、「どんな曲にしますか?」という話をします。それで「まずはメインテーマを聴かせてください」というところから始まる。そこから「あれが違う」とか色々な打ち合わせをして、メインテーマがオッケーということになったら、あとは映像に合わせて作っていくという作り方をしています。

—『イップ・マン』は打楽器のリズムが印象的ですね。

そうですね、監督が打楽器が好きなんで。

—川井さんもお好きなのでは?

確かに自分の趣味というのもあります(笑)。やはり戦いには太鼓かな、と。ただ、基本的に日本の太鼓も中国の太鼓もあまり差はないですから、生を含めた色々な太鼓を使いました。でも、そこが生音なのか、シンセなのかはともかく、やはりベーシックとしての雰囲気が出せればと思いました。


(C) 2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd. All Rights Reserved.

—メロディーも、中国の二胡を使った甘い音が入っている曲もありましたが、中国映画ならではの中国テイストというのは意識したんですか?

僕は使いたいなと思うんですが、中国や香港の人は使わなくていいと。むしろ映画に合っていれば何でもいいという考え方のようで。むしろ中国楽器にこだわることはしないでくれと言われました。「せめて二胡だけ入れさせて」ということで、二胡を入れさせてもらったんですが、あまりそこにはこだわってないみたいですね。日本映画だからといって、三味線とお琴をいっぱい入れてくれというものでもないでしょうしね。

—ほかにも監督とのやりとりで印象的なことはありますか?

「盛り上げて」というのは毎回、打ち合わせの中でのポイントになります。イップ監督は、メロディーに対してもいいセンスを持っているんで、もっと情緒的に盛り上げてくれないかと僕によく言いますね。逆に僕がここは音を抑えた方がいいんじゃないかと思うところでも、ダーッといっちゃいましょうと。だから僕にとっては勉強になりますね。そういう監督のこだわりには応えたいなと思っています。

—イップ監督は音楽にもこだわりがあるんですね。

1作目の時に、ある師匠がイップマンと戦いたいと言って戦うシーンがあったんですが、あそこで作った曲を監督が気に入ってくれて。これをメインテーマにできないだろうかと言われて、逆に僕の方が気付かされたということがありました。「それはいいかもしれない、じゃあそうしましょう」と。それがメインテーマの曲になったということがありました。作っている側が気付かない部分に気付かせてくれる監督のサジェスチョンというのは、僕にとっては本当にありがたいことですね。『セブンソード』の時にもそういうことはありました。

—中には「全部お任せ」という監督もいらっしゃるのでは?

もちろんそういう方もいます。何も言ってくれないのも、それはそれで楽なんで、一概にどちらがいいとは言えないんですけどね(笑)。

—音楽で心がけていることは?

ざっくりいうと、そのシーンがカッコ良くなればいいということです。それが戦いであろうと、静かなシーンであろうと、映画のそのシーンが、観ただけではなく、感情的にもっと深みが出て、カッコ良くなれば自分が気持ちよくなる。自分が気持ちよくなるのが実は一番大事で。うまくいかない時って、自分でもなんか違うなと思うわけですよ。そういう時は、自分が気持ちよくなるまで作り直す。気持ちよくなれば、最終的にはカッコ良く見えるんじゃないかと思っているんです。それをお客さんがどういう風に観てくれるのかは分からないんですが、そこだけは自分で心がけていますね。

—リズムとメロディーはどちらが先に思いつくんですか?

同時ですね。やっぱりシーンによって切り替わりがあったり、振り返ったり、パンチを出したり、そういうタイミングがあるので。アクションの場合は、特にそこをキッチリと合わせなきゃいけないんですよ。それを合わせるためには、ある程度テンポは決めていかなきゃならない。そのテンポにキッチリと合わせるために、微調整もしています。実はテンポも、曲のスタートはBPM(演奏のテンポを示す単位)90だったのに、チェンジするところでは実は88.7くらいになったりすることも。実は微妙に気付かないところでテンポをいじっているんですよ。それはおそらく聞いていても分からない範疇だと思います。それから気分があがったりとか、ある程度ビックリするところなどは、変拍子を入れてみたりとか。いろいろな方法を使って合わせていくわけです。

—アクションでカットがパッと変わるものと、長回しでジーッと捉えるものでは、音楽の作り方は変わってくるんですか?

カメラの位置などはあまり気にしないです。むしろシチュエーションの方が大事なので。特に(イップ・マンが使う)詠春拳の場合は、動きがスチール写真のように止まるところがあるわけです。その時には音楽も止まるわけです。あとは、止まっているところの気分を盛り上げる曲を作って、動き出したらまたリズムが始まるとか。そういう作り方をしていますね。

—やはり映像とのコラボを大事にしていると。

そうですね、それしかないですね。音楽だけ単体で切り取ろうとは思わないんですよ。やはり映像と合わせてナンボのものなので、そんな中でも「映像と合わさなくてもいい」と言ってもらえる時もあって、それはそれでうれしいことなんですけど、手がかりがない分逆に大変ですね。


(C) 2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd. All Rights Reserved.

—近年、ドニーさんは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『トリプルX:再起動』などのハリウッド映画に出演されていますね。

もともとドニーさんはスーパースターですからね。当然ハリウッドでも活躍すべき人と思っていました。ですから僕の彼に対する印象はあまり変わらないですね。

—ドニーさんはどんな方なんですか?

実はドニーさんとはあまりやりとりをしていないんですよ。ただ、「テーマ曲をピアノで弾きたいから、譜面をちょうだい」と言ってきたことはありました。「ピアノ弾けるの?」と聞いたら、「弾ける」と言っていましたけどね。

—ドニーさんのピアノの腕前は?

聞いたことがないんですよ。

—いつかドニーさんのピアノを聴く日が楽しみですね。

そうですね(笑)。


KENJI KAWAI
川井憲次 1957年、東京都生まれ。バンド活動の後、自宅録音に興味を抱き、CM等の仕事を経て映画音楽の世界へ。映画『機動警察パトレイバー THE MOVIE』(89)、『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』 (95)、『イノセンス 』(04)、『スカイ・クロラThe Sky Crawlers 』(08)などの押井守監督作品や、『リング』(98)、『DEATH NOTE デスノート』(06)、『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』(10)、『貞子3D2』(13)などの映画の他、「科捜研の女」シリーズ(99〜)、「花燃ゆ」(15)などのTV作品、数々のゲーム音楽などを手がける。韓国や中国が関わる作品も手がけ、 『セブンソード』(05)、『墨攻』(06)、“イップ・マン”シリーズ、『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』(13)で香港電影金像奨音楽賞ノミネート。他にハリウッド作品『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17)エンディング曲など。


『イップ・マン 継承』
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:ユエン・ウーピン
音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン、マックス・チャン、リン・ホン、パトリック・タム、マイク・タイソン(特別出演)
4月22日より新宿武蔵野館ほかにて全国公開。
http://gaga.ne.jp/ipman3/


本記事は「ローリングストーン」から提供を受けております。
著作権は提供各社に帰属します。

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事