新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、NTTアドバンステクノロジ、大阪大学とともに、特殊な電気光学特性を持つKTN結晶を用いた小型・高速・低消費電力で駆動する光スキャナーにより、硬性内視鏡による生体組織の3次元イメージングに成功したことを発表した。これにより、組織内部のイメージをリアルタイムに低侵襲な診断・治療することが可能となる。この成果は、4月19日~21日にパシフィコ横浜で開催されている「レーザーEXPO2017」のNTTアドバンステクノロジブースにて展示されている。

(左)KTN光スキャナーを組み込んだ硬性内視鏡、(右)取得に成功したヒトの指表面組織の3次元イメージ(出所:NEDO Webサイト)

KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)結晶は、電圧で屈折率が変わる特殊な電気光学効果を持つ材料で、その効果は既存材料の中で最も大きい。これにより、光の偏向(スキャン)を従来材料の1/100の電圧で実現可能で、レーザー光を偏向するデバイス(光スキャナー)に用いることで、従来の光スキャナーに比べて大幅に高速、小型で、かつ低消費電力で駆動できる。

NEDOらのグループは、そんなKTN結晶を用いた光スキャナー(KTN光スキャナー)を、硬性内視鏡に組み込み、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)と組み合わせて用いることで、硬性内視鏡による生体組織の3次元イメージングに成功した。これにより、体の表面に小さな穴を開けるだけで組織内部のイメージをリアルタイムに低侵襲な診断・治療を行うことが可能になるという。

開発された光干渉断層計(OCT)の外観

また、このたび開発された硬性内視鏡は、KTN光スキャナー2台で構成され、レーザー光の光軸に沿って少数の光学部品を直線的に配置することで低損失化を実現し、患部からの微弱な戻り光を損失無くOCTで検出し、高品質なイメージングが可能となっている。このシンプルな光学系により、16mm角×183mm長、重さ60gという小型・軽量な硬性内視鏡を実現したという。

また、KTN光スキャナーはポリゴンミラーやMEMSのように機械的な可動部分が無い構造のため、長時間の使用においても安定に駆動するのに加え、本体が振動しないため手術時の精密な操作が可能で、安定したイメージングを実現するということだ。

さらに、KTN光スキャナーは電気光学効果によって動作し、構成する結晶自体が誘電体であるために結晶内部に電流は流れない。これにより、現在普及しているポリゴンミラーや従来のOCTに用いられているガルバノスキャナーに比べ、1/1000の省電力化が可能だという。

今後、NTTアドバンステクノロジは、動物実験や臨床試験を実施し、医療機器としての実用性を検証していくという。さらに、内視鏡手術に係る幅広い医療分野への展開を目指し、診断機器としての利用に加えレーザー光を有効活用した治療装置への展開を進めていくとのことだ。