京都大学は、同大理学研究科の一本潔教授、柴田一成教授、石井貴子研究員らの研究チームが、飛騨天文台SMART望遠鏡へ2016年4月末に新設した「Solar Dynamics Doppler Imager」(SDDI)を用いて、太陽のHα線像で黒く見える筋である「太陽のフィラメント」放出現象の観測に成功したことを発表した。この研究成果は4月15日、Springer Natureの学術誌「Solar Physics」に掲載された。

太陽からのフィラメント放出運動を捉える飛騨天文台 SMART 望遠鏡(左)と 2016年7月7日および 2017年4月2日の噴出現象(右)(出所:京都大学Webサイト)

フィラメント放出は、大規模なコロナの質量放出(Coronal Mass Ejection: CME)をともない、地球にぶつかると磁気嵐やオーロラ、時には地上の送電線に異常な電流を誘導して大停電を引き起こすことがある。

しかし、すべてのフィラメント消失がCMEをともなうわけではなく、噴出するフィラメントの速度構造と関係していると考えられているものの、観測機器の性能に限界がありまだ十分に調査されていない。従来の観測では、光のある特定の波長(水素原子の放つHα線 656nm)のみで太陽を観測していたため、ひとたびフィラメントが猛烈なスピード(秒速100km以上)で地球に向かって飛び出すと、ドップラー効果によってHα線の波長がずれ、フィラメントを見失ってしまうからだ。そこで研究グループは、Hα線を含む広い波長でフィラメント放出を観測し、その運動の全貌を把握することで、地球を襲うCMEの発生をいち早く予報できると考えたという。

Hα線でみた太陽像(左)と人工衛星で観測したCME(右)(出所:京都大学Webサイト)

この研究では、高速運動するフィラメントの三次元速度構造を決定するために、京都大学飛騨天文台SMART望遠鏡を更新し、液晶によって波長制御を行う新方式のフィルターにより、Hα線を中心として±9Aの範囲を73波長撮影できる新装置「SDDI」を新設。同装置では、撮影間隔も15秒単位に短縮している。従来の装置で観測できるフィラメントの噴出速度は最大 55km/秒だったのに対し、この新装置では最大410km/秒まで捉えることが可能となり、太陽から高速に飛び出すフィラメントの速度と方向を完全に把握することのできる観測装置となった。

この新しい装置は太陽面の爆発を監視して現代社会に災害をもたらす「太陽嵐」の到来をいち早く予報するシステムの開発を目指し、2016年5月4日、太陽の東縁で秒速180kmのフィラメントの高速運動を観測したたという。その後も定常観測を続け、2016年7月7日には、Hα-8A(370 km/秒)の画像でも噴出するフィラメントが確認できたほか、最近では2017年4月2日、西の縁で発生したCMEを伴う噴出現象を観測したということだ。これらの画像は、飛騨天文台 SMART 望遠鏡のWebサイト上で閲覧できる。

研究グループは、フィラメント噴出現象をたくさん観測し、その運動とCMEの発生の有無や大きさ、伝搬する方向との関係を調査することで、地球を襲うCMEをいち早く予測するための方法を開発できると考えているという。その方法が実証できれば、将来、現代社会の宇宙災害予防を目的とした人工衛星による監視システム等への応用が考えられるとしている。

2017年4月2日朝にSMART/SDDIにより観測された中規模フレアおよびフィラメント噴出とSOHO/LASCO により観測されたCME発生の様子(出所:京都大学Webサイト)