次世代材料として期待され「夢の筒状炭素分子」と言われてきた「カーボンナノベルト」の合成に成功した、と名古屋大学の研究グループが14日発表した。カーボンナノベルトは60年以上前に理論的に提唱されながら合成方法が見つかっていなかった。世界初の成果でさらに研究が進めば電子デバイスなど幅広い応用が期待できるという。論文は米科学誌サイエンスに掲載された。

図1 カーボンナノベルトの構造解析図(名古屋大学研究グループ提供)

図2 カーボンナノベルトの合成経路の概略図(名古屋大学研究グループ提供)

今回合成されたカーボンナノベルトは同じ炭素物質である「カーボンナノチューブ」を輪切りにしたような筒状構造を持つのが最大の特長。カーボンナノチューブは1991年に飯島澄男(いいじま すみお)名城大学終身教授により発見された。鉄の約20倍も硬いのに軽く熱や電気を通しやすいことから次世代材料として期待されてきた。しかし炭素の配列の仕方により無数の構造があり、構造の違いによって強度や導電性などが異なる。このため「筒状」という特定の構造と機能を持つカーボンナノベルトを合成する方法を見つけることが長い間世界的な研究課題だった。

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の伊丹健一郎(いたみ けんいちろう)教授らは、安価な石油成分として知られる「パラキシレン」を材料に10段階の化学反応を繰り返してひずみのない環状分子を合成。次にニッケルを使った「炭素炭素結合形成」と呼ばれる反応を駆使してカーボンナノベルトを完成させたという。

研究グループが合成に成功したカーボンナノベルトを詳しく解析したところ、筒状構造を持ち、硬さや電子を通すことなど、カーボンナノチューブに近い性質もあることを確認したという。 伊丹教授らの研究グループによると、カーボンナノベルトは今後ナノカーボン科学を一新する分子として発光材料や半導体材料として各種電子デバイスに搭載できる可能性があり、高い導電性と強度を生かすことで軽くて曲げられるディスプレイや省電力の超集積CPU、バッテリーや太陽電池の効率化など幅広い応用が期待できる、という。

研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)の一環として進められた。

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