科学技術振興機構(JST)と国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は4月6日、乳がんが肝臓の遺伝子発現の概日リズムを乱すことをマウスで発見したと発表した。

同成果は、ATR佐藤匠徳特別研究所 河岡慎平主任研究員らの研究グループによるもので、4月5日付けの米国科学誌「Oncotarget」オンライン版に掲載された。

地球上のほぼすべての生物は、明暗周期に対応した約24時間周期のリズム「概日リズム」を持つ。遺伝子によって、DNAから写し取られるRNAやタンパク質の量そのものに約24時間の周期が存在するものもあり、マウスの肝臓では1000以上の遺伝子の発現パターンに概日リズムがあることがわかっている。

今回、同研究グループは、マウスに乳がんを移植するモデルにおいて、乳がん移植後、転移や明らかな異常が起きる前の段階で、肝臓や肺、腎臓、心臓といった主要臓器における遺伝子発現パターンを網羅的に記録。この結果、肝臓において、Nr1d1という遺伝子の発現に異常が認められた。

Nr1d1はさまざまな概日リズム遺伝子のリズムを生み出す「上位の時計遺伝子」として知られているため、同研究グループは、「乳がんが肝臓の概日リズム遺伝子の発現パターンをかく乱する」という仮説を立て、網羅的遺伝子発現解析と、バイオインフォマティクス、数理モデルを用いてさらなる解析を行った。この結果、乳がんを持つ個体の肝臓では、Osgin1やE2f8など概日リズム遺伝子の一部の発現パターンが乱れていることが明らかになった。

さらに、発現が乱れた遺伝子が関連している生理学的反応に着目して実験を重ねたところ、乳がんが肝臓に酸化ストレスの上昇をもたらすこと、肝細胞のDNA含有量を増加させ、細胞のサイズを大きくすること、そして肝臓を肥大させることがわかった。肝臓の肥大はがん患者に広く認められる症状であり、その詳しい分子メカニズムは明らかになっていなかったが、この結果から「概日リズム遺伝子の発現パターンの乱れ」が原因である可能性が示唆されたといえる。

同研究グループは、今回の研究が発展することにより、生体や臓器への影響を制御しながら、がんと共存できるような手法を開発する基盤情報となることが期待されると説明している。

今回の研究の概念図。乳がんの移植により肝臓の概日リズム遺伝子の発現が乱れる。発現の乱れにはいくつかパターンが存在し、それらは、「位相のずれ」「完全な破綻」「昼夜逆転」に分けられた。発現が乱れた遺伝子が関連している生理学的反応に着目してさらに実験を行ったところ、さまざまな肝臓生理の異常を発見した (出所:JST Webサイト)