週末、子連れでのお出掛け先として人気が高い「ららぽーと」。充実した授乳室などの設備や、食事しやすいフードコートの小上がり席、それに子どもが楽しめる遊び場などが充実していて、パパ・ママ、そして孫を連れ出す祖父母世代も、過ごしやすい空間が広がっている。

子連れ客を意識した商業施設は、いまや当たり前の存在となりつつあるが、実はここ最近の変化でもある。ららぽーとを運営する三井不動産では、ママ社員が集まったプロジェクトチーム「ママwithチーム」が発足した2013年から、より細やかな取り組みがスタートした。

このような変化が生まれたきっかけはなんだったのだろうか。そして子連れ客に優しい商業施設は、今後どのように進化していくのだろうか。同プロジェクトチームのメンバーで、それぞれ5歳の女の子を育てる鎌田奈美子さん、三宅悠子さんに聞いた。

左から、三井不動産の鎌田奈美子さん、三宅悠子さん

「かゆいところに手が届いていない」ママになって得た気づき

三井不動産 商業施設本部内のママ社員7名で結成された「ママwithチーム」。「こんなに大人数の女性社員が、近い時期に育休に入って、職場復帰してくるという状況は珍しく、チームを結成しやすかったことも、背景としてあります」と語るのは、チームメンバーの1人、鎌田奈美子さんだ。1名を除くと、子どもの年齢は1歳違いのママたちが集まったチームだったという。

「ららぽーとは"ファミリー向け"が売りの1つなのに、自分がママになって利用してみて初めて、"かゆいところに手が届いていない点がまだまだあるな"と感じました。そんな話をママ社員のランチ会で話していて、プロジェクトリーダーが『社内に提案する?』という流れからスタートしました」。

「ママwithチーム」のメンバー

今すぐに使いたい授乳室やオムツ替え室は、いつも混んでいる。トイレの中にベビーカーを入れられない。履かせるタイプのオムツは、立ち姿勢でオムツ替えをしたいのに、用意されているのはベッドだけで使いにくい……。

「私が気になったのは、オムツ替え室のゴミ箱。消臭対策はされていなくて、ただ置いてあるだけなので、臭いが気になる時があります。ゴミ箱が"置いてあればいい"という利用者視点に欠けた設計基準ではなくて、もう少しきめ細やかな対応が欲しいね、と話しました」。このようなアイデア出しは、毎週月曜日に開かれた"ランチミーティング"で実施されたそうだ。

「ママwithららぽーと」の発足経緯について語る鎌田さん

産休・育休中におのおのが持っていた気づきはとどまるところがなく、出された意見に共感しあい、さらに「こうだといいよね」が広がり、会議は進行。結果として、小さな点も含めると、約100項目もの改善点が挙がったという。

それらを元に、子連れ客にやさしい施設を実現したのが、新興住宅地が広がり、ファミリー世帯が多い、大阪府和泉市の「ららぽーと和泉」。オムツ替えゾーンには、ベッドに加え、立ち姿勢も可能なオムツ替え台、あわせて62台を設置し、オムツを密閉してにおいを防ぐゴミ箱や、空気清浄機も配備した。また、1つのブースに大人用と子ども用の2つの便器がある「親子トイレスペース」も作るなど、メンバーから挙がった声を反映させた。

ららぽーと和泉の「Mama with Park Zoo Adventure」。子どもと一緒に使えるトイレやくつろぎスペースを設置。カフェと遊び場を併設した

鎌田さんは、「家の中で、子どもと2人でずっと一緒にいるというのは、けっこう苦痛なんですよね。外の空気に触れたい、大人と話したい、自分も気分転換したい……。そういう時に、ママたちはショッピングセンターに行くのだと、実感しました」と、当時を振り返る。

遊び場にカフェを併設したのも、子どもを遊ばせながら、親が休めるようにと考えたから。購入した商品を自宅に送れるクロークサービスや、紙オムツ・離乳食・ミルクなどを欲しい分だけ少量購入できる「赤ちゃん荷物駆け込みサービス」を取り入れたのも、荷物が多くなりがちなママの負担を思ってのことだ。「育児に奮闘するママが、少しでも負担なく、気分転換できるように……」。どのサービスにも、そんな思いが込められている。

気づきを形にしていけるのは、ディベロッパーの醍醐味

希望していたフードコートの小上がり席を実現させた三宅さん

本来であれば、店舗になるスペースをぜいたくに使ったこれらの設備。当初は「収益につながるのか?」という懸念も一部、挙がっていたという。しかし、子育て世帯にやさしい設備でファンを獲得し、長期的な利益獲得につなげた「ららぽーと和泉」の成功は、社内の空気を変えた。多くのメディアから取り上げられ、売り上げも好調。会社全体への理解が広がったのだ。

0~1歳児向けの「ハイハイパーク」

「フードコートには、子どもを寝かせ、親もゆっくり食事を楽しむことができる小上がり席が欲しい」と希望していたメンバーの三宅悠子さん。今、ららぽーと和泉での取り組みをきっかけに、他の施設でもこの工夫を進化させ、展開している。

2016年10月にオープンした「ららぽーと湘南平塚」では、小上がり席を約70席設置。食事前後に子どもを遊ばせることができるよう、無料の遊び場も併設した。0~1歳向け、2~4歳向け、それに3~6歳向けと、対象年齢でエリアを分けているので、親も遊ばせやすく、安心だ。

2~4歳児向けの「ながめるパーク」

3~6歳児向けの「ピクニックパーク」

また、子どもの遊び場、調乳器のある授乳室、電子レンジが使え、離乳食が食べさせられる場所が一緒になった「こにわハウス」というスペースも作った。

「靴を脱ぐ遊び場のため、小さいお子さんが横になっても大丈夫。遊び場で子どもが駄々をこねたら、すぐに授乳室に行けるというのがミソです」と三宅さん。「気づきを形にしていけるというのは、ディベロッパーの醍醐味。ディベロッパーのママだからこそ、できたことではないかと思います」と、仕事への思いを語った。

遊び場、調乳器のある授乳室、電子レンジが使え、離乳食が食べさせられる場所が一緒になった「こにわハウス」

離乳食が食べられるスペース

授乳室も完備

変わっていく当事者の声に応える

徐々に広がるママwithららぽーとの取り組み。これからも、ママ社員たちがプロジェクトで活躍していくのだろうか。この質問に鎌田さんは、「現状以上のプラスアルファの要求が、お客さまにはあるはずです」と答えた。

7人のママ社員で始めたプロジェクトは現在、ママ社員に限らない、複数部署の横断的な取り組みに変化している。日々、専用のホームページに寄せられる客からの要望に応える形で、サービスに生かしたり、リニューアルのタイミングに施設を改修したりしているという。

また、ママだけでなく、幅広い年代の客が使いやすい施設作りも意識しているとのこと。「ママに優しいサービスはパパにも、おじいちゃんおばあちゃんにも優しいサービス。特に共働きのママは、祖父母に子どもを預けることもあるので、"ママだけが使いやすい"というのは避けたい」と三宅さん。オムツ替え室などは、女性でなくても利用できるよう、内装などを工夫しているそうだ。

社員も客も、ママだからこそ得られる気づきがきっと施設を変えていく。気づきを着実に形にしていく、ららぽーとの今後を期待したい。