東京大学(東大)は4月5日、血液中でコレステロールや中性脂肪などの脂質の運搬を担うLDLが、薬の運搬体としても機能していることを見出したと発表した。

同成果は、東京大学医学部附属病院薬剤部の大学院生 山本英明氏(研究当時)、高田龍平講師、山梨義英助教、鈴木洋史教授らの研究グループによるもので、4月4日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

LDLは血液中に存在し、コレステロールや中性脂肪などの脂質を体の中で運搬する働きをし ている。LDLコレステロールの血液中濃度は、遺伝的な要因や生活習慣などによって大きく変動することが知られているが、一般に悪玉コレステロールとも呼ばれているように、その濃度が高いと、生活習慣病や動脈硬化症をはじめとするさまざまな脂質関連疾患の発症に繋がるとされている。臨床においては、生活習慣病の発症リスクを評価する代表的なバイオマーカーのひとつとして、多くの健康診断でLDLコレステロール値が検査されている。

近年、LDLには脂質だけでなく、ビタミンEやビタミンKなどの一部の栄養素も分布することが明らかになっており、さまざまな生体内物質の運搬にLDLが関わることがわかってきた。そこで今回、同研究グループは、薬物もLDLに分布して血液中を循環し、体の各組織に運ばれているのではないかという仮説を立て、研究を行った。

まず、臨床で用いられている42種類の薬物を無作為に選択し、各薬物がLDLに分布するのかどうかを、マウスを用いた動物実験で調べたところ、水に溶けにくい性質を持つ多くの薬物が、LDLに分布することが明らかになった。

また一般に、LDLはその受容体を介して血液中から細胞中に取り込まれることが知られている。そこで同研究グループは、LDL受容体を高発現または発現抑制した培養細胞を用いて、薬物輸送実験を行った。この結果、LDLに分布した薬物の細胞内取り込み量は、LDL受容体を高発現させると増加し、LDL受容体の発現を抑制すると減少したことから、LDL受容体はLDL分布型薬物の取り込み活性を持つことが明らかになった。

LDL受容体の機能欠損マウスにLDL分布型薬物を経口投与したところ、投与した薬物の血液中濃度は、コレステロールや中性脂肪の血液中濃度と同様に、健常マウスと比較して顕著に高い値を示した。一方、LDL変異マウスの肝臓に、正常なLDL受容体を高発現させたマウスでは、血液中に蓄積していたLDLが肝臓内に取り込まれ、LDL分布型薬物の血液中濃度は低下したという。

また、血液中に異常蓄積したLDLを機械的に除去するLDLアフェレシス療法をを受けている患者に対し、LDLアフェレシスの前後で服用している薬物の血液中濃度が変化するかどうかを解析した結果、同療法により、LDLコレステロールだけでなくLDLに分布する薬物も体内から除去されて、血液中濃度が大きく低下することが明らかになった。したがって、ヒトにおいてもLDLが薬物の運搬体として機能している可能性が示されたといえる。

同研究グループは今回の成果について、脂質代謝の変動を考慮した薬物投与設計や薬物治療の最適化に繋がることが期待されると説明している。

LDLとLDL受容体による薬の体内挙動制御 (出所:東京大学Webサイト)