理化学研究所(理研)と高輝度光科学研究センター(JASRI)は29日、X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)施設「SACLA」で稼働している2本の硬X線FELビームライン(BL2、BL3)について、2本同時に40ギガワットを超える高いレーザー出力で運転することに成功したことを発表した。

SACLAのレイアウト

「SACLA」は、2012年3月の供用開始以来、数々の利用成果をあげる一方で、利用者に提供可能なビームタイムの不足が課題となっていたことから、2015年にはBL3に続いてBL2の運用を開始し、2016年にはパルス毎に電子ビームを振り分けることで、BL2とBL3の同時運転を実現した。しかし、BL2へ電子ビームを輸送するためには屈曲したビーム輸送路を経由する必要があり、発生する強い放射光によって電子ビームの品質が損なわれるという問題があった。この劣化はピーク電流を小さくすると抑制できるが、これによりレーザー出力も低下し、同時運転時のレーザー出力は数ギガワットにとどまっていた。また、電流が小さくなることでパルス幅も長くなるなど、実施できる実験が限られていた。

理研とJASRIは、この問題を解決するために、ドッグレッグのビーム光学系のデザインを抜本的に見直したところ、この過程でビーム光学系を最適な条件にするためには、電子ビームを両ビームラインに振り分けるためのキッカー電磁石を、これまでの約6倍の電圧で動作させる必要があることが判明。このために必要となる高出力パルス電源をニチコンと共同開発し、次世代のパワー半導体デバイスである「SiC MOSFET」を利用することで、電力の損失が少なく、高効率かつ高安定性を持つ電源を実現したという。

キッカー電磁石(左)と、新たに開発された高出力パルス電源(右)

ビーム光学系の高度化は、2016年12月から今年1月にかけて実施され、2月には新たな光学系によるBL2への電子ビームの輸送試験を行ない、高いピーク電流の条件下でもビーム品質が劣化しないことが確認されたほか、BL2とBL3の同時運転時のレーザー出力を計測し、40ギガワットを超える高い出力が得られていることも確認されたという。これにより、SACLAの特徴である超短パルスと高いレーザー出力を最大限に生かした実験が、2本の硬X線FELビームラインで同時に行える準備が整ったということだ。

「SACLA」では2016年7月より、BL3、BL2に加え、軟X線FELビームラインBL1の同時運転を実施している。BL1はSCSSを再利用した独立の専用加速器を有するため、今回の成功は、SACLAが3本のFELビームラインを高出力で同時運転する、類を見ない施設に発展することを意味するという。他のXFEL施設では不可能な、複数ビームラインの高出力同時運転を生かした利用機会の増加による成果の拡充に加え、特色あるXFELの利用法の開拓を通したユニークな成果の創出が期待できるということだ。

BL2とBL3の運転ステータス