情報通信研究機構(NICT)は3月22日、撮影ドローンが写した動画データを、中継ドローンを介して、電波が直接届かない場所であるカバレッジホールまで完全秘匿化したまま、無線局免許不要の市販Wi-Fi機器を用いて伝送する技術を開発したと発表した。

同成果は、NICTの佐々木雅英 主管研究員を中心とする量子ICT先端開発センターのメンバーとプロドローンとの共同研究によるもの。

ドローンで映像を撮影する場合、通信インフラの圏外にまで飛行してしまったり、地上局から電波が直接届かない場所(カバレッジホール)において撮影する必要などが生じていた。また、ドローンの制御やデータ授受の際に、無線で通信をする場合、簡易な暗号化しか行われないため、傍受や干渉、妨害などの影響を受けやすく、運用面の安全性に課題があり、これらの2つの課題を解決できる安価かつ安全な中継技術の開発が求められていた。

今回、研究グループは2016年4月に実証実験に成功したドローンの制御通信をワンタイムパッド暗号によって完全秘匿化する技術を発展させ、制御信号のみならず、容量の大きい動画データまでも完全秘匿化し、かつカバレッジホールまで中継ドローンを介して安全にデータ中継する技術を開発した。

具体的には、データ中継には、無線局免許不要な市販のWi-Fi機器を用い、データと鍵のビット列の足し算で済み、計算遅延が小さく、小型の基板上への実装が可能ながら、高い安全性が確保できるワンタイムパッド暗号化と組み合わせることで、ドローンによる動画データの完全秘匿中継を低コストで実現することが可能になったという。

また、ドローン通信では、通信路の特性変動が大きく、データ欠損も頻繁に生じるため、大量の暗号鍵をドローンと地上局間でパケットごとに正確に同期させ、正しく更新する仕組みが必要となることから、各パケットにデータ欠損を検知する符号化と、通信路特性に応じて最適なパケット間隔で鍵同期信号を送信する技術も開発。これにより、データ伝送効率の低下を最小限に抑えつつ鍵同期を行い、次々に新しいカメラ映像を低遅延で送り続けることが可能になったと研究グループでは説明している。

研究では、実際に愛知県豊田市郊外のテストフィールドにおいて実験を実施。ドローンによる上空からの監視業務を模擬し、不審者に扮した人(被写体)を追う撮影ドローンからの映像を、中継ドローンを介して地上局で受信するという内容で、撮影ドローンから中継ドローンを介し地上局まで12Mbpsの伝送速度で、監視カメラの動画データを完全秘匿化したまま中継伝送できることが確認されたという。また、室内での実験も、建屋内を撮影ドローンによって探索するというシナリオの下、ドローン間および中継ドローンと地上局間の距離は、共に約10mと近距離としつつ、さらに、撮影ドローンと地上局間にパーティション(7.8m×高さ1.8m)を設置し、地上局へは撮影ドローンからの電波が直接届かないという想定で実施。暗号化された動画データ通信と動画再生手順について屋外フィールド実験と同様に実施し、通信速度12Mbpsで動画データを完全秘匿化したまま中継伝送できることを実証したという。

なお、研究グループでは、今後も人の立ち入るのが難しい重要施設の監視などの用途へ活用するために信頼性試験を継続するとともに、撮影・中継ドローンの台数を増やし、広域で多様な中継ネットワークを柔軟に構成するための技術開発にも取り組んでいきたいとしている。

ドローンによる動画データの完全秘匿中継技術の概要と屋外フィールド実験の機器構成(左から、撮影ドローン、中継ドローン、地上局)