電車に乗ったり雑誌を開いたりしたときなど、日常の多くの場面で脱毛にまつわる広告が目に入る。施術価格が下がったこともあり、エステティックサロンや医療機関で脱毛することは、女性はもちろん男性にも浸透しつつある。

最近は男性も体毛を気にしだしている

確かに鼻毛や女性のワキ毛は、身だしなみの一つとして整えることは必要かもしれないが、あらゆる体毛を除去しようとする現代の風潮に「人間の体毛というのは、あるべくしてそこにあるのでは……? 」という疑問が生じなくもない。

そこで、今さら人に聞けない体毛にまつわる疑問について、脇坂クリニック大阪院長・脇坂長興先生に聞いてみた。

体の大切な臓器を守る体毛

そもそも人間の体になぜ体毛があるのかというと、産毛も含めて体毛の役割は「体温を保つ、外からの刺激(紫外線、こすれ、衝撃など)から体を守る」というのが定説のようだ。確かに、毛が多く生えている場所には脳(頭)、生殖器(デリケートゾーン)、リンパ節や太い血管(ワキ)などの大切な器官や組織がある。

また、毛が生えている毛穴(=毛孔・もうこう)の奥には皮脂腺が開口している。毛穴から分泌される皮脂と角質が剥がれ落ちた垢が、常在菌によって天然のクリームとなり、皮膚をバリアする役割を果たしているという面もある。

現代は、そのような役割のある体毛を脱毛することが当たり前になってしまっている。無くしてしまって本当に大丈夫なのか不安がよぎるが、「体毛がなくなった結果、体に甚大な問題が起きたという例はこれまで報告されていない」と脇坂先生は話す。まずは、ひと安心といったところだろう。

現代は脱毛が当たり前になってしまっている

毛をコントロールしているのは男性ホルモン

ところで、男性の人は「男性ホルモンが多いとハゲる」という説を聞いた経験はないだろうか。「毛は男性ホルモンでコントロールされている」という事実に間違いはないが、問題はテストステロンとジヒドロテストステロン(DHT)という2つの男性ホルモンのバランスにあるという。

毛髪減少に大きく関わるのは、後者のDHT。DHTは、テストステロンが変換されてできたさらに強力な男性ホルモンで、性欲を増進したり、精液をつくったりすると同時に、毛根を萎縮させる働きがある。

テストステロンをDHTに変換するために必要な酵素が存在しているのが前頭部と頭頂部であるため、DHTが集中する前頭部から頭頂部にかけて毛が減少する「男性型脱毛症」が起きるというわけだ。

そして意外かもしれないが、女性の体にもテストステロンは存在する。副腎から分泌されているそうだが、このテストステロンは女性ホルモンの一つであるエストロゲンの材料になっている。女性の体にも体毛を生えさせる厄介な存在かと思いきや、大切な役割を担っているというわけだ。

脱毛後のお手入れは念入りに

では、自分で必要ないと判断した体毛はどのように処理すればいいのだろうか。選択肢が多岐にわたるだけに、その方法に悩む人も多いことだろう。脇坂先生のアドバイスをもとに、ポイントを整理してみた。

■カミソリ……簡単な方法ではあるが、肌を傷めることになるため使用は避けたほうが賢明。

■脱毛テープ・ブラジリアンワックス・毛抜き……まず、処理する前に肌を清潔に保ち、清潔な道具を使うことが重要。肌を傷めることになるため、処理した後はクリームやローションなどで十分に保湿するように。

■脱色剤・除毛剤……アカスリをしたすぐ後に行ったり、頻繁にしたりするのは避ける。利用頻度も1カ月に1回以下がベター。処理した後は十分に保湿しよう。

■エステティックサロン・医療機関での光脱毛やレーザー脱毛……信頼できる技術を持つ施設を選ぶことが大前提で、低価格のみを打ち出している施設は要注意。さらに、脱毛用の光やレーザーはメラニンが濃い部分に反応するため、日焼け後に行うのは避けるように。

■自宅で使える脱毛器……最近の家庭用脱毛器は、その機能性も高くなっている。品質のしっかりした物を選べば、エステティックサロンや医療機関で脱毛するより時間はかかるが手軽にできる。ただし、処理した後は他と同様、十分に保湿すること。

セルフ脱毛時のポイントとは

どんな方法で実施するにせよ、肌に何かしらの負担をかけることに間違いはないため、脱毛した後のケアは念入りにしたい。

20年前は男性が眉毛の手入れをするのは特別なことだったが、今は身だしなみの一つとなったように、「毛の在り方」は時代によっても変化する。情報に惑わされず、正しい選択をすることで、毛と上手に付き合っていきたいものだ。

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