ケン・ローチが描く社会システムの不条理『わたしは、ダニエル・ブレイク』

ケン・ローチが描く社会システムの不条理『わたしは、ダニエル・ブレイク』

名匠ケン・ローチが、年老いた大工と不条理な官僚制度の戦いを、素晴らしく的確な描写で描いた快作。

不条理な"システム"によってひどい目に遭わされている労働者階級の人々。イギリスが誇るベテラン監督ケン・ローチは、この手の社会問題に深くメスを入れ続けてきた。80歳の社会派現実主義者のローチは、ホームレスを描いた1966年のBBCドラマ『キャシー・カム・ホーム』から、アイルランドのゲリラ兵士を描いた2006年のパルム・ドール受賞作『麦の穂をゆらす風』まで、社会に搾取される労働者階級の人々のために声をあげてきたのだった。

昨年のカンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールを獲得した『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、この数十年、ローチ監督が必死に追求してきたテーマを総括するような作品となっている。コメディ俳優のデイヴ・ジョーンズが、抑制をきかせながら、心に染み渡るような品ある芝居でタイトルロールを演じた。

59歳の大工ダニエルは、愛する妻を亡くしたばかりで、自身も心臓発作に苦しんでいる。ダニエルは医師の指示により仕事に復帰することができず、生活保護という援助がなければ、ニューキャッスルの低価格住宅街の家賃を払うこともできない。しかし保護申請は却下され、彼は上訴手続きを踏まざるを得なくなる。


(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinéma and The Bri@sh Film Ins@tute 2016

ローチ監督と彼の長年のパートナーである脚本家のポール・ラヴァティは、複雑な障害を巧みに配置することで、当然支払われるべき援助が受けられないダニエルの葛藤、心が痛むようなユーモアと内に秘めた怒りを描き出した(彼らの懸念は、英国はもちろん我々の国境問題にも波及するものだ)。生粋の"人間主義者"であるローチは、この強迫にまみれた時代に我々が団結することの重要さを説いているのだ。『わたしは、ダニエル・ブレイク』はこれまでのローチ監督の作品群の中で最も理解しやすく、彼の最高傑作の一つと言っても過言ではないだろう。

パソコンの知識が全くないダニエルは、煩雑なマニュアル通りのお役所仕事に四苦八苦している時(これが行政サービスのオンライン化計画「デジタル・バイ・デフォルト」、つまり電子政府政策の実態である)、自分と同じ境遇の女性にまるで家族のような連帯感を感じる。その女性とは、二人の子供を育てるシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアース)。ロンドンのアパートを追い出されたケイティは、やがて生活のために身を売るようになる。

当然ながら、ローチは"負け犬"と呼ばれる人々を支持する。ジョーンズとスクワイアースも、シンプルながら記憶に残る名演で観客の心に訴えかける。ダニエルは、逮捕されるのを覚悟の上で自身の窮状を壁に殴り描きし、通行人を鼓舞させ、大きな声援を浴びる。そう、我々はダニエルに声援を送らずにはいられないのだ。


『わたしは、ダニエル・ブレイク』
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアースほか
3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
http://danielblake.jp/


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