東北大学などは3月14日、ひとつの金属原子に9つの水素が結合した新たな物質群の合成に成功したと発表した。

同成果は、東北大学金属材料研究所 高木成幸准教授、同大学原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所 折茂慎一教授、量子科学技術研究開発機構 齋藤寛之上席研究員、高エネルギー加速器研究機構 池田一貴特別准教授、大友季哉教授、豊田中央研究所 三輪和利主任研究員らの研究グループによるもので、3月13日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

化学的に高い活性を持つ水素だが、周期表左から6番目の列~12番目の列に属する金属元素群とは、常温常圧下で安定な結合を形成しないことが古くから知られており、これらの元素群はハイドライド・ギャップと呼ばれている。

一方で、ハイドライド・ギャップに属する元素は錯体水素化物を形成することで多くの水素と結合することができる。しかし、クロム(Cr)とモリブデン(Mo)、タングステン(W)は、ハイドライド・ギャップに属するにもかかわらず、錯体水素化物においても水素と結合しないとされてきた。これに対して、同研究グループは2015年に、Crと水素が結合した錯体水素化物の合成が可能であり、例外であったCrが一般的な金属より多い7つの水素と結合することを発見していた。

同研究グループは今回、残りの例外であるMoとW、またハイドライド・ギャップには属していないもののこれまで錯体水素化物の合成報告がなかったニオブ(Nb)とタンタル(Ta)の4元素を含む4種の錯体水素化物の合成を試みた。

今回の研究ではまず、第一原理計算を用いて、これら4元素と水素が結合する可能性を詳細に調べることで、9つの水素が金属原子を中心とする四角面三冠三角柱の頂点に位置することにより、4元素すべてが水素と結合すると予測。さらにこれらの結合が、リチウムイオン(Li+)とヒドリドイオン(H)によって安定化され、4種の錯体水素化物(Li5MoH11、Li5WH11、Li6NbH11、Li6TaH11)を形成するであろうと考えた。

次にこの理論予測をもとに、4種の金属とリチウム水素化物(LiH)の粉末を用い、これらを所定の比率でよく混ぜた後、5万気圧650℃~750℃の水素流体に長時間晒すという合成実験を実施。その後、中性子高強度全散乱装置で試料の中性子回折測定を行った結果、理論予測された結晶構造をもつ物質群が形成し、予測どおり4種の金属それぞれに9つの水素が結合していることを確認した。

同研究グループは、今回の成果によりほとんどの金属元素と水素を結合させる技術が確立されたことになると説明している。

今回の研究で合成に成功したLi5MoH11とLi6NbH11の結晶構造。Li5WH11、Li6TaH11はそれぞれLi5MoH11、Li6NbH11と同じ結晶構造を持つ (出所:東北大学Webサイト)