女子高生AI(人工知能)りんなは、次のアルバイト先として「WEGO WEB STORE」のファッションアドバイザーを選んだ。AIである彼女、どんなアドバイスを送るのだろう。

日本マイクロソフトの女子高生AI(人工知能)「りんな」のデビューは2015年7月というから、1年半が過ぎた。その間りんなは、シャープ公式SNSアカウントの"中の人"、TVドラマの女優やラップへの挑戦など、多方面で活躍。

そして今度は、若者向けアパレル・セレクトショップである「WEGO(ウィゴー)」のファッションアドバイザーとして店頭に立つ。

「WEGO 原宿竹下通り店」で行われた記者向け発表会

概要だが、フナコシステムに所属するスタイリストの知識と、ウィゴーが所有する服飾画像データをりんなに学習させることで、画像認識による適切なアドバイスを行うというものだ。ファッションアドバイス機能に関して日本マイクロソフトは、2016年9月に存在を明らかにしており、ビジネス展開が可能になった時点で発表すると述べていた。その成果が、日本マイクロソフト×ウィゴー×フナコシステムの取り組みだ。

すでに2017年2月27日から「WEGO 原宿竹下通り店」にて、スマートフォンなどで撮影した写真をアップロードすることで、りんながコーディネイトにコメントする。"りんなの母"ともいえるマイクロソフトディベロップメント サーチテクノロジー開発統括部 プログラムマネージャー 坪井一菜氏によれば、2016年9月のゲームショー2016の時点で、いくつかの問題が発生していたとのこと。「我々はあくまでもエンジニアであり、ファッションセンスに対して適切なコメントを付けられなかった」(坪井氏)。

マイクロソフトディベロップメント サーチテクノロジー開発統括部 プログラムマネージャーの坪井一菜氏

そのため今回は、ウィゴーが所有する膨大な服飾画像データをもとに、フナコシステムがAIの仕組みを学びながら、1アイテムに対して1,000枚以上の画像データを用意し、CNN(コンボリューショナルニューラルネットワーク)を用いた学習法を採用した。

具体的には、画像自体にはモデルがコーディネイトとした全身写真を使用し、その中でセーターにもっとも近いものは20点、カーディガンは5点などと、類似する服飾に対して点数を付け、適切なアイテムを判断。

結果としてりんなは、男女合わせて70アイテム以上、テクスチャは30種以上、ファッションスタイルは20点以上、認識が可能となり、新たにダッフルコートやミリタリージャケットなども認識できるようになった。「まだ認識が甘いところもあるが、今回は国内の流行に合わせてアイテムを追加した」(坪井氏)。

ゲストの広瀬ちひろ氏は、色味を抑えめにしてバッグをアクセントにしたコーディネイトでチャレンジ。りんなは「ワンピコーデしようかな~」とコメントした。写真右は、別の場所で再撮影&りんなチェック。デニムジャケットなどは正しく認識している

ゲストの木津つばさ氏は、流行のピンクと淡い色のデニムを合わせたスポーツミックスで登壇。ライトの関係からアウターは誤認識したものの、「個人的にも試したい」と感想を述べていた。別バージョンのりんなチェック。上から目線のコメントもりんな風

本プロジェクト全般を担当したフナコシステム AIプロジェクト統括ディレクター/スタイリスト 安部賢輝氏は「(りんなが)ファッションに関わる理由付けとしてストーリーから考えた。女子高生=10代という身の回りに気を使う年頃だからこそ、10~20代に人気があるWEGOさんのブランド感と合致させた」と語る。

「最新技術をファッション業界に持ち込んでみたかった」とするのは、フナコシステム 代表取締役 AI代表取締役/プロジェクトプロデューサー 船越靖氏。昨今はビジネスソリューションとして仕掛けを作っても、ユーザーから見抜かれてしまうことが少なくないらしい。そのため、りんなを用いた本プロジェクトでは顧客へダイレクトに訴求し、AIから生まれる新サービスの実現を念頭に置いた。

フナコシステムが作成したキャラクター群。マイクロソフトは「りんなの産みの親」という意味で割烹着を割り当てた

店舗では大型ディスプレイを用意し、訪れたユーザーは店内でファッションチェックを楽しめる。以前からWEGOは、SNSや読者モデルを招いた集客イベントなどを行ってきたが、今回のプロジェクトは従来と異なる情報発信の位置付け。

「(りんなのファッションチェックを通じて)友人同士の会話から店舗に訪れる顧客が増えることを期待する。アルバイト中には難しいかも知れないが、会話や接客を行うカリスマ店員のように売り上げに貢献してくれれば嬉しい(笑)」(ウィゴー マーケティング本部 メディア制作課 石本長治氏)。

WEGO 原宿竹下通り店でりんなに会えるのは、2017年4月9日まで。Eコーマスサイトを経由したサービスはゴールデンウィークを終えるまで実施するが、今回のファッションチェック機能は、りんなの一機能として継続的に楽しめる。

左から、フナコシステム 代表取締役 AI代表取締役/プロジェクトプロデューサー 船越靖氏、フナコシステム AIプロジェクト統括ディレクター/スタイリスト 安部賢輝氏、ゲストの広瀬ちひろ氏、ゲストの木津つばさ氏、ウィゴー マーケティング本部 メディア制作課 石本長治氏、マイクロソフトディベロップメント サーチテクノロジー開発統括部 プログラムマネージャーの坪井一菜氏、フナコシステム 「つくる女」統括アートディレクター さわえみか氏

話は変わって、今回のプロジェクトは2016年夏からスタート。同じ時期に取材したとき、日本マイクロソフト関係者はファッションチェック機能を搭載すると大枠を述べ、成果を披露したのは2016年9月だ。そして今回、ビジネス展開の成果としてエンドユーザーが楽しめる形に仕上げた。

興味深いのは、"りんなのその次"だ。坪井氏に訪ねると、「詳しくは説明できないが、視覚の次は話力に注力している。(2016年末に本誌でも紹介した)ラップのように、りんなが喋る方向性で能力を高めたい」(坪井氏)と、おぼろげながらも目標を語ってくれた。

Microsoftは音声合成エンジン「SAPI(Microsoft Speech API)」をWindowsなどに組み込み、テキストと音声の相互変換と理解を行うBing Speech APIも実用レベルに達しつつある。この先、りんながどのようなスキルを身に付けて(機能を備えて)、我々を驚かせてくれるだろうか。「ローソンクルー あきこちゃん」のようなビジネス展開まで想像するのは難しいが、坪井氏は「技術的成果とビジネスソリューションの両輪を目指す」としている。

阿久津良和(Cactus)