名古屋大学(名大)などは3月8日、ナノピラー・ナノスリット技術を用いて、細胞内に含まれる核酸成分からマイクロRNA(miRNA)のみを20ミリ秒以内で抽出することに成功したと発表した。

同成果は、名古屋大学大学院工学研究科化学・生物工学専攻 馬場嘉信教授、加地範匡准教授、大阪大学産業科学研究所 川合知二特任教授、九州大学先導物質化学研究所 柳田剛教授、北海道大学大学院工学研究院応用化学部門 渡慶次学教授らの研究グループによるもので、3月8日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

miRNAは、22塩基程度の長さを有する、タンパク質に翻訳されないノンコーディングRNA のひとつであり、ほかの遺伝子の発現を調節する役割を担っている。これまでにもmiRNAはシリカビーズなどを用いた固相抽出法により抽出されていたが、数十μL以上のサンプル量と人の手による操作が必要であり、現在開発されている1分子レベルでDNAやRNAの塩基配列を解読できるナノポアシーケンサーへの前処理操作として適用するには、サンプル量や連続操作などに課題があった。

同研究グループが今回開発したナノバイオデバイスでは、半導体分野で用いられる超微細加工技術を使い、ナノピラーという直径数百nmの大きさを有する柱状構造が生み出す2次元ナノ空間の核酸分離原理に、3次元方向にナノスリットを併せて作製することで異なった核酸分離原理を採用。これらの相乗効果により従来では数十秒かかっていたmiRNAの分離・抽出工程を100ミリ秒以内に行うことを実現した。同研究グループは実際に、がんのバイオマーカーとして知られるlet-7を20ミリ秒で抽出することに成功している。

同ナノバイオデバイスでは、数pL程度のサンプル量からmiRNAを抽出することができるため、1細胞から目的のmiRNAを抽出し、さらに1分子レベルで核酸の塩基配列解読可能なナノポアシーケンサーをはじめとした機器へ一体化することで1細胞解析を可能にする技術となることが期待されるという。

(A)ナノピラー・ナノスリットを搭載したナノバイオデバイスの写真 (B)ナノピラー・ナノスリット構造部分の模式図 (出所:名古屋大学Webサイト)