東北大学は3月8日、白血球の一種であるマクロファージが造血幹細胞から優先的に作られる分子メカニズムを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大学大学院医学系研究科生物化学分野 五十嵐和彦教授、同大学加齢医学研究所遺伝子導入研究分野 伊藤亜里助教らの研究グループによるもので、3月7日付けの米国科学誌「Cell Reports」に掲載された。

白血球は、病原菌の感染初期に活性化され細菌を貪食して排除するマクロファージと、感染の後期に抗体を産生して病原菌の動きを止めるリンパ球に大別できる。この2種の細胞は、どちらも造血幹細胞から分化し、この細胞分化は遺伝子の発現を調節する転写因子によって制御されている。これまでに、細菌感染に応答してマクロファージへの分化が優先的になり、最初の防御機構が働き出すことが知られていたが、このときに造血幹細胞で何がおきているのかなど不明な点は多く残っていた。

今回の研究では、造血幹細胞においてお互いに抑制し合うBach2およびC/EBPβという2つの転写因子が働いており、細菌のリポ多糖に応答して分化がマクロファージ側に傾くことが明らかになった。リポ多糖は細菌の構成成分である脂質と多糖が結合した分子だが、これが造血幹細胞の表面にある受容体に結合すると、マクロファージで働く遺伝子群の発現を抑える転写因子Bach2の量が減り、逆にマクロファージ遺伝子の発現を促進する転写因子C/EBPβの量が増加する。

またマクロファージへの分化は、マクロファージコロニー刺激因子であるM-CSFというタンパク質が、造血幹細胞表面に存在する受容体に結合して促進される。このM-CSF受容体をつくる遺伝子の発現に対しても、Bach2は抑制に、C/EBPβは促進に作用することも明らかになった。Bach2とC/EBPβは、互いの発現を抑制しあうシーソー関係にあるという。Bach2遺伝子を破壊したマウスでは、リポ多糖刺激によるマクロファージへの分化が野生型マウスよりも増強し、逆にリンパ球への分化は減少する傾向が認められた。

同研究グループは今回の成果について、細菌感染の際の白血球の分化の仕組みの一端を明らかにしたものであり、感染症の重篤化や慢性炎症など、さまざまな免疫関連疾患の詳細な理解につながることが期待されると説明している。

マクロファージ分化促進の分子メカニズム。細菌感染時には、Bach2とC/EBPβのバランスが変化し、M-CSF受容体の発現が高まり、マクロファージ分化が優先的に生じる (出所: 東北大学Webサイト)