豊橋技術科学大学 都築和代教授は、産業技術総合研究所、旭化成ホームズと共同で、エアコン冷房の気流が睡眠に与える影響について調査した。

エアコンで部屋の温度をコントロールすることは、熱帯夜であっても快眠することにつながる。だが、人が感じない程度の風速であっても、エアコンの風が睡眠時には身体への刺激となり、睡眠深度の変化などの影響を受けることが明らかになった。同研究の成果は、2016年12月23日にエネルギー関連の学術誌「Energy and Building 誌」オンライン版で掲載された。

実験中(就寝前)の被験者の様子

都市の温暖化で夏期に熱帯夜が多く発生する昨今、エアコンによる室温調整は代表的な対策となっている。一方で、一晩中エアコンを使うと体に悪いという風聞があることに加え、寝冷えをしたり、寒さで途中に目が覚めたりした経験がある人は少なくない。

就寝環境のエアコンの設定に関して、風の強弱を設定することはあるものの、実際の風速を測定したデータは提示されておらず、エアコンからの気流の影響について検討された研究はこれまでなかったという。そこで、都築教授ら研究チームは、風速が異なるエアコンを用いて、同じ温度に設定した2つの寝室で睡眠をとった時の、脳波計測による睡眠深度や体温調節、主観申告に及ぼす影響を比較した。

同研究では、室温は26℃とし、平均風速が0.14m/sの一般的なエアコン、と0.04m/sの風速で出力できる特別仕様のエアコンといった2種類の気流の影響を比較した。0.2m/s以下の速さの気流は、人が感じない気流という意味で「不感気流」と呼ばれ、後者のエアコンでは不感気流を出力していると言える。

一般的なエアコンは、室温が設定温度になると気流が弱まり、室温が上がると再び気流が吹き出す。そのため、気流の吹き出すタイミングと体の動き、心拍数、睡眠深度の中での覚醒段階との関係について比較したところ、一般的なエアコンの方が、不感気流を出力するエアコンと比べ、体動や心拍数の上昇、覚醒の頻度が有意に多くなった。つまり、一般的なエアコンでは、冷風が吹き出す瞬間に、寝返りを打ったり睡眠深度が変わったりすることが判明し、睡眠に何らかの影響を与えている可能性があると示唆された。

被験者は、起床時や寝ている時には気流が速い方(一般的なエアコン)がより涼しいと感じていたが、一晩を通しての快適感、各睡眠深度の長さ、皮膚温や直腸温、寝る前の温冷感には有意な違いが認められなかったという。同研究では健康な青年男性を被験者としたが、体力が劣っていたり、寒さに敏感な女性や高齢者であれば、睡眠全体により大きな影響を与えた可能性が推察される。

同研究の成果によって、起床時に快適だと感じていても、エアコンの設定によって睡眠の質が悪化している可能性が示唆された。快適な睡眠環境を作り出すためのエアコンの風速設定について、有用な手がかりになることが期待される。