東京大学(東大)は3月1日、酸性環境の腫瘍組織において、コレステロール代謝を制御するタンパク質が活性化し種々の代謝酵素の発現を変化させることで、腫瘍増殖および患者予後に関与することを明らかにしたと発表した。

同成果は、東京大学先端科学技術研究センターシステム生物医学分野 大澤毅特任助教、同センターゲノムサイエンス分野 博士課程 近藤彩乃氏(研究当時)、油谷浩幸教授らの研究グループによるもので、2月28日付けの米国科学誌「Cell Reports」に掲載された。

固形がんにおいては不完全な血管構築による血流不全から、がんの中心部が低酸素状態に陥りやすく、その結果として解糖系代謝が亢進し酸性状態になることが知られている。しかし、酸性状態におけるがん細胞の応答メカニズムや酸性環境によるがん悪性化への影響は、これまで明らかになっていなかった。

そこで今回、同研究グループは、酸性環境における転写制御因子を予測するために、酸性状態を模した培養系を用い、がん細胞に対しトランスクリプトームおよび、エピゲノムの網羅的オミクス統合解析を実施。これまでがんにおいてどのような役割を果たしているか不明であった転写因子SREBP2が、酸性環境で活性化している可能性を見出した。

さらに、培養細胞とマウスを用いた解析から、SREBP2が確かに酸性環境で核内移行して活性化すること、結果としてコレステロールや酢酸を代謝する酵素群の発現を上昇させ、腫瘍増殖および患者予後に関与することを明らかにした。

同研究グループは今回の成果について、酸性環境におけるがん細胞の転写・代謝応答に着目した新規創薬の開発に繋がることが期待されると説明している。

酸性環境におけるがん細胞の応答メカニズム。細胞外pH7.4の通常状態では、SREBP2はERに局在し不活性型である。一方、細胞外pH 6.8の酸性状態にがん細胞が陥ると、細胞内のpHが低下し、SREBP2がゴルジ体を経由して核内に移行し活性化する。結果として、コレステロール生合成や酢酸代謝に関連する酵素群の発現を誘導することで、がんの生存や進展に寄与する (出所:東京大学先端科学技術研究センターWebサイト)