金沢大学は2月28日、肝臓から分泌されるホルモン「ヘパトカイン」のひとつが骨格筋に作用することで、運動を行ってもその効果を無効にする運動抵抗性という病態を起こしていることを発見したと発表した。

同成果は、金沢大学医薬保健研究域医学系 金子周一教授、篁俊成教授、御簾博文准教授らの研究グループによるもので、2月27日付けの米国科学誌「Nature Medicine」オンライン版に掲載された。

運動は生活習慣病の予防や治療につながるため、運動療法として定期的に行うことが推奨されている。しかし、運動療法の効果にはかなりの個人差があり、運動を行ってもなかなか効果が出ない人がいることが報告されていた。

今回、同研究グループは、2型糖尿病、脂肪肝の患者、高齢者で多く発現しているヘパトカイ ンであるセレノプロテインPに着目。セレノプロテインP欠損マウスに1日30分の走行トレーニングを1カ月行ったところ、同じ強さ・同じ時間のトレーニングをしたにもかかわらず、正常マウスと比べて、運動限界能力が約2倍に上昇することを見い出した。また1カ月の走行トレーニング後に、血糖低下ホルモンであるインスリンの注射を行ったところ、セレノプロテインP欠損マウスでは正常マウスと比べて、インスリンによる血糖低下作用が大きくなることがわかった。

一方、正常マウスにセレノプロテインPを投与すると、運動後の筋肉において、運動のさまざまな効果を担うとされるAMPKリン酸化が低下することがわかった。また、セレノプロテインPの筋肉での受容体であるLRP1を持たないマウスでは、セレノプロテインPを投与しても筋肉に取り込まれず、運動によるAMPKリン酸化は影響を受けないことがわかった。

さらに、運動習慣がまったくない健常者女性31人に、有酸素運動トレーニングを8週間行ってもらい、有酸素運動能力のマーカーとして最大酸素摂取量を測定。トレーニングをしてもあまり最大酸素摂取量が増加しない被験者では、トレーニング前の血液中のセレノプロテインP濃度が高かったという。

これらの結果から、セレノプロテインPは、受容体LRP1を通じて筋肉に作用することで、運動したとしてもその効果が無効になる運動抵抗性を起こしていると考えられる。同研究グループは今回の成果について、運動の効果に個人差がある原因のひとつを解明したもので、今後2型糖尿病などの身体活動低下に関連したさまざまな生活習慣病に対して、セレノプロテインPとLRP1を標的にした新しい運動効果増強薬の開発や、セレノプロテインP濃度の測定による運動効果の出やすさの診断などにつながることが期待されると説明している。

肝臓から分泌されたヘパトカインであるセレノプロテインPは、筋において受容体LRP1を介して作用し運動抵抗性を誘導する (出所:金沢大学Webサイト)