遺伝子治療でマウス成熟固体の統合失調症に類似した症状が回復 - 理研など

理化学研究所(理研)は3月1日、新たな機序に基づく「統合失調症モデルマウス」を開発し、同マウスの成熟個体に遺伝子治療を行うことで、統合失調症に類似した症状が回復することを発見したと発表した。

同成果は、理研 脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チームの糸原重美チームリーダー、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の林悠 准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の桑原正貴 教授、安田光佑 大学院生らによるもの。詳細は英国の科学雑誌「Translational Psychiatry」に掲載された。

およそ100人に1人の割合で発症するといわれる統合失調症だが、幻聴・妄想などの「陽性症状」、意欲の低下・感情の平板化などの「陰性症状」、記憶力・注意力・情報処理能力などの機能が低下する「認知機能障害」といった症状に分けられ、従来の治療薬は、陽性症状の治療には有効ながら、陰性症状と認知機能障害に対しては十分な治療効果が得られないという課題があった。

これまでの研究から、脳の深部にある視床の機能異常や、注意・覚醒を担う脳領域の一部と考えられる「視床髄板内核(ILN)」でNMDA受容体の発現量が減少していることが報告されていることから、今回、研究グループは、、ILNにおけるNMDA受容体の機能低下によって、統合失調症の症状が引き起こされる、という仮説を立て、ILNにおけるNMDA受容体の機能が生まれつき低下している遺伝子改変マウス(ILN変異マウス)を作製し、認知機能障害の症状についての研究を行ったという。

新しい統合失調症モデルマウス(LIN変異マウス)で観察された注意・衝動性の障害。上段が5つあるランプのうち、点灯した1つの穴に決められた時間のうちに鼻先を入れて反応することで、報酬としてえさがもらえるという学習課題のイメージ。下段がランプの転倒時間を5秒、2秒、1秒、0.6秒と徐々に短くしていった際の誤反応や点灯する前に反応してしまう衝動性反応がILN変異マウスでは増加したことが確認された (画像提供:理化学研究所)

その結果、同マウスは学習速度が遅く、記憶の保持に障害があるほか、注意力が低下し、衝動性が亢進していることや情報処理能力の障害などが確認されたという。また、ILNのNMDA受容体の機能低下により、脳の発達が妨げられている可能性があることから、遺伝子治療によるモデルマウス成熟個体におけるILNのNMDA受容体を補うことによる認知機能回復検証を行ったところ、可逆的に作業記憶(短期記憶)を回復させることに成功したほか、陽性症状の一部が回復されていることを確認。ILNのNMDA受容体を標的とした治療、あるいはILNの活動を調整する手段が統合失調症に有効である可能性が示されたとする。

遺伝子治療により新しい統合失調症モデルマウスの作業記憶が改善。左が遺伝子治療の概要。右がY字迷路試験の変異マウスと治療マウスの比較。作業記憶(短期記憶)の改善が確認された (画像提供:理化学研究所)

なお、今回の成果について研究グループでは、統合失調症における睡眠覚醒や神経オシレーション活動の障害が、ILNの機能低下が原因となっている可能性を示したものとしており、今後、引き続き同マウスを用いてILNの役割の解明を進め、統合失調症の発症機序を理解していくことで、薬や遺伝子治療、さらに脳に直接的に刺激を与えるなどの治療法の探索に役立つ知見が得られると期待されるとコメントしている。

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