東京工業大学(東工大)は2月22日、アフリカツメガエルから新たながん抑制戦略を発見したと発表した。

同成果は、東京工業大学生命理工学院 田中利明助教らの研究グループによるもの。2016 年7月6日付けの米国科学誌「Developmental Biology 」オンライン版に公開され、今後 同誌のアフリカツメガエルゲノム特集号に掲載予定となっている。

アフリカツメガエルは、特に発生過程研究や細胞周期研究などの生物学分野においてモデル生物として用いられており、昨年、全ゲノム解読に成功している。今回、同研究グループは、アフリカツメガエルのゲノムで細胞増殖を直接制御する細胞周期の制御関連遺伝子、特にがん抑制遺伝子として知られるCDK阻害因子群を調べた。

この結果、アフリカツメガエルでCDK阻害因子群の遺伝子構造が明らかになった。この因子群は、他の脊椎動物種ではがん抑制機能など重要な役割を持つが、アフリカツメガエルでは非常に不安定であり、CDK阻害因子7種類のうち「p57KIP2遺伝子」および「p16INK4a遺伝子」が完全に欠損しており、「p21CIP1遺伝子」と「p18INK4c遺伝子」は同祖遺伝子の一方に変異が認められた。

p16INK4a、p14ARFがコードされているp16遺伝子座の欠損マウスでは、がんが高頻度に生じること、ヒトのがんでもp16遺伝子座の欠損が多く認められることが報告されている。また、p57遺伝子の欠損は、マウスでは造血幹細胞の減少や骨形成不全、ヒトではある種のがんやベックウィズ-ヴィーデマン症候群との関連があるとされている。

しかしながら、アフリカツメガエルにおいては、がんの発生率は低いことが知られている。そこで同研究グループは、CDK阻害因子群以外によるがん抑制機構の存在があると考え、さらなる解析を実施。この結果、別ながん抑制機構の候補として、CDK-Activation Kinase(CAK)を構成する CDK7とCyclin Hの同祖遺伝子の半数化および遺伝子発現の減少を発見した。

CDK阻害因子群の多くを欠損しながらも、がんの発生率が低いアフリカツメガエルの例は、CDK阻害因子群に頼らずにがんを抑え込む機構の存在を示唆していることから、同研究グループは、同機構をヒトなど他種動物のがん抑制に展開できる可能性があると説明している。

細胞の増殖を制御する細胞周期制御因子群。細胞周期の各時期で特異的なCDK/Cyclin複合体が順序よく活性化することにより細胞周期が回る (出所:東工大Webサイト)