「リゾチーム」と呼ばれるタンパク質の結晶ができる瞬間を観察することに北海道大学の研究グループが成功した。タンパク質の結晶化の解明は新薬開発(創薬)の上で重要だが結晶化については未解明なことが多い。研究グループは結晶化の最初の過程を観察、詳細な過程も明らかにし「創薬のブレークスルーにつながる成果」としている。論文は米科学アカデミー紀要にこのほど掲載された。

図 結晶化過程の模式図。分子が集合し,熱力学的に安定な大きさの結晶核が生成する過程を「核生成」,その後の結晶が大きく成長していく過程を「結晶成長」と呼ぶ。結晶成長への理解は近年目覚ましいが、核生成については直接観察することが困難だったためにその過程はほとんど分かっていなかった(図、図説明は北海道大学研究グループ提供)

写真 タンパク質結晶の核生成を捉えたTEM像。研究グループが独自の工夫を施し手観察した(提供・北海道大学研究グループ)

タンパク質の結晶化の過程の中でも最初の過程である「核生成」は、結晶のサイズや形、構造を決める上で重要だが、ナノメートル(ナノは10億分の1)単位の空間で数秒以内に終わってしまうことなどから詳細は不明だった。

北海道大学低温科学研究所の木村勇気(きむら ゆうき)准教授、山﨑智也(やまざき ともや)学術研究員と米ヒューストン大学、東北大学などの共同研究グループは、ナノメートル単位の空間分解能を持つ透過型電子顕微鏡(TEM)に独自の工夫を施して、リゾチームの結晶化最初期過程の核生成を観察することに成功した。観察内容の分析から、ガラス状粒子の上で液滴状の粒子が集まって大きく成長してできる、というリゾチームの結晶化の核生成の主要な仕組みを確認できたという。

観察内容を分析から、リゾチームの結晶化の核生成は、ガラス状粒子の上で液滴状の粒子が不規則に集まって大きく成長してできることなど、核生成の詳しい過程を確認できたという。

人間の体内でできるタンパク質は10万種類とも20万種類とも言われている。リゾチームは細菌の細胞壁を分解する機能があるタンパク質。タンパク質はアミノ酸が数十から数千結合(ペプチド結合)してできている。アミノ酸の鎖は立体的に折りたたまれて、それぞれのタンパク質は固有の3次元構造を作っている。その固有の構造により固有の働きを持つとされている。

タンパク質の結晶を人工的に作ることができると、その立体構造を解析することによりタンパク質の正確な構造を決定できる。構造が決まれば病気に効く薬を直接デザインできることが可能になるという。新薬の開発にはタンパク質の結晶化研究が極めて重要と言われるのはこうした理由からだ。

今回の研究成果について研究グループは「思い通りにさまざまなタンパク質を結晶化させる手法の確立につながると期待できる」としている。

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