母国事情も含めて、日本の「ゆとり教育」について聞いてみた

近年の日本の教育を語る上で外せないのが「ゆとり教育」だろう。「学力が低下した」などと批判され、実際にこの教育を受けてきた人たちからも否定的な声を聞くことがある制度だが、そんな日本の状況を一歩外から見ている外国人は、いったいどのように感じているのだろうか。母国の教育の現状を含め、日本在住の外国人20人に聞いてみた。

いいと思う

・「日本のゆとり教育について、個人的に賛成です。成人になると、社会からいろんなプレッシャーがあるため、子ども時代はできるだけ圧力のない時期を過ごさせたいです」(中国/30代半ば/男性)

・「とてもいいと思います。インドネシアでは小学校低学年から授業の負担が多いので、子どもたちがかわいそうと思います(例: 1年生で14~18科目の学校もあります)」(インドネシア/40代前半/女性)

・「ゆとり教育はとてもいいことだと思います。子どもたちも自由に楽しめる時間が大事だと思います。私が子どもの頃からスペインでもいろいろな教育の見直しがありましたが、特に、更にゆとりにはなっていないと思います」(スペイン/30代前半/女性)

・「勉強量を減らすことは別にいいと思う。ただただ勉強を詰め込んだところで、頭に入らなければ意味がない」(インド/40代前半/男性)

・「ゆとりがある教育の方がいいと思います。学校は全てではないと思います。アメリカでは、2001年の『No Child Left Behind』(どの子も置き去りにしない法)で検査基準が多くなって厳しくなりました。その結果、今はテストを合格するために教えているだけです。ものを暗記するのと、ものを習うのとは全然違うと思います。本当によくないと思っています。私の意見ですが、フィンランドのようなゆっとりした教育システムがベストだと思います」(アメリカ/30代前半/女性)

・「制度として悪くなかったと思います。ウクライナでは方針が変わるというニュースをあまり聞いたことがありません」(ウクライナ/30代前半/男性)

いいと思うけど足りない点も

・「いいと思いますが、もっと発想を重視すべき」(ベトナム/20代後半/男性)

・「方向性は合ってたと思うが、具体策がちょっと足りなかった。詰め込み授業はよくないけど、とにかく量を減らすよりも、学生個人個人がもっと自分の意見を話し、意見交換ができるようにしなければならなかったと思う。自分の主張が言えるような教育をしていたら、『ゆとり』とから変われることはなかっただろう」(韓国/20代前半/男性)

よくない・失敗と思う

・「ハンガリーにもゆとり系の教育傾向がありますが、どちらかというと日本の方が強いかと思います。ゆとり教育事態はよくないと思います。日本の若者が甘い考えを持って、世間知らずになってしまうから」(ハンガリー/30代前半/女性)

・「教育内容を変えるのはよくないと思う。戦後、日本の復活を成したのは、教育の濃密さだと思う。パラグアイでは教育制度の更新はあったが、教育内容の抜本的な変更はない」(パラグアイ/30代前半/女性)

・「よくないと思う。いい効果がなかったから。ロシアでも国の教育方針が変わることはもちろんあったが、ゆとり教育みたいな制度ではない」(ロシア/20代半ば/女性)

・「ゆとり教育は生徒の自主性の伸長に重点を置いているから、学力低下の問題にいたります」(香港/20代後半/女性)

・「個人的に、日本のゆとり教育は失敗だったのではと思っています。モンゴルは1990年ぐらいに社会主義国家から資本主義国家になったため、教育方針が大きく変わりました」(モンゴル/30代前半/男性)

・「日本のゆとり教育はもう厳しいと思います。フィリピンの教育方針は変わったようです。教育レベルが低いという批判があったそうです」(フィリピン/40代前半/女性)

・「ゆとり世代の問題ですが、日本人は海外についての知識・注目が少なすぎるように思います。ゆとり教育で、それが更に上がったでしょう。また、日本に限った話ではないですが、若い世代は楽をしすぎていると思います。いい成績をとる・合格するなどが当たり前みたいな傾向。とにかく自分に非がない、責任がないこと。非常に嘆かわしいです」(イタリア/30代前半/男性)

・「教育の厳しさではなくて、システム(塾、受験など)の厳しさを変えるべきでした。フランスでは教育はそんな変わっていないと思います」(フランス/30代前半/男性)

日本には合わないと思う

・「個人的に、ゆとり教育は日本に合わないと思います。ルーマニアはEUに入る直前に"選べる教科書"という制度が導入されました。EUに加入するために、EUと同じ基準にしないといけないという考え方があったからです。この制度は1999年から現在まで続いています。選べる教科書というのは、ひとつの科目(例えば数学等)で、難易度の違った複数の教科書を作って、それぞれのクラスの担当の先生が自分の好きな教科書を選ぶという制度です。ルーマニアの高校はクラスがそれぞれ専門に分かれていて、数学・IT専門や化学専門や文系専門のクラスがあります。この選べる教科書制度では、例えば文系専門のクラスなら数学はそんなに知る必要がないから、数学の一番簡単な教科書で勉強することになります。そういう考え方がよくないと思います。義務教育の中で、生徒は何を知るべきかという基準がなくなっていて、何が重要かが分からなくなります。私の意見ですが、高校を卒業するまでにみんなが一定の教育を受けるべきだと思います」(ルーマニア/30代前半/女性)

母国では逆に学生の負担に

・「台湾でも似たような改革があって、教科書の内容さえ変えられましたが、逆に学生たちに余計な負担をかけてしまうようです」(台湾/20代後半/女性)

そのほか

・「タイではあんまり大きい変化が見られません。政治が安定しないため、昔の風習がいまだに見られます」(タイ/30代前半/男性)

・「ゆとり教育について初めて聞きましたので、あまり具体的な意見は持っていません」(ブラジル/20代後半/男性)

総評

『ゆとりですがなにか』など、ドラマのタイトルにもなるほどに、少々後ろ指さされ的なイメージのあるのがゆとり教育だろう。しかし、そもそもの国の考えとしては、これまでの教育を見直し、"生きる力をはぐくむ"という高い理想を掲げて始まったものだった。

今回のアンケートで「いいと思う」が6人、「いいと思うけど、足りない点もある」が2人で、合計8人が肯定的な回答だったが、中でも「足りない点」として挙げられていたのは、「もっと発想を重視すべき」(ベトナム/20代後半/男性)や、「学生がもっと自分の意見を話し、意見交換ができるようにしなければならなかった」(韓国/20代前半/男性)だった。当初、日本がゆとり教育に期待していたのも、そういった主体性を育てることにあったのだが、なかなか理想通りにはいかないものなのだろう。

「よくないと思う」と「日本に合わない」の合計は9人で、それぞれに母国の事情を含めてのコメントをいただいた。日本についてだけではなく、どこの国であっても教育は非常に大きな問題というのが見てとれる。

筆者の個人的意見としては、これまでに出会った、いわゆるゆとり世代と言われる若者には、他の世代にはない発想や考え方を持ち、人生においてユニークな挑戦をしようとしている人が多いと感じている。それがゆとり教育のたまものであるかどうかは定かでないものの、もしそうであるのなら、この先の日本は面白くなっていくような気がしている。

調査時期: 2016年7月16日~2016年8月15日
調査対象: 日本在住の外国人
調査数: 20人
調査方法: インターネット応募式アンケート

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