帝国データバンクは2月14日、「2017年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果を発表した。これによると、賃金改善を見込んでいる企業は51.2%で過去最高となり、2017年度における従業員給与・賞与は約3.5兆円増加すると試算している。

賃金改善状況の推移

同調査は同社が1月18日~31日にかけて「TDB景気動向調査」と共に実施したものであり、調査対象は全国2万3796社、うち有効回答企業数は1万195社(回答率は42.8%)。

2017年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)が「ある」と見込む企業は51.2%であり、2016年1月に実施した前回調査での2016年度見込みを4.9ポイント上回った。賃金改善のある企業は2年ぶりに増加し、2006年の調査開始以降、初めて5割を超えたという。

一方、「ない」と回答した企業は22.5%であり、前回調査を1.2ポイント下回った。また、「分からない」は3.7ポイント減少した。

「ある」が「ない」を7年連続で上回ると同時に、その差も28.7ポイントと過去最大を更新したという。2017年度の賃金動向は概ね改善傾向にあると同社は見ている。

2016年度の実績では、賃金改善が「あった」企業が3年連続で6割を超え、景気の先行き不透明感が増す中で、多数の企業が賃金改善を実施していた様子が伺えるという。

賃金改善の具体的内容

2017年度の正社員における賃金改善の具体的内容は、ベースアップが40.3%、賞与(一時金)が28.8%で、前回調査における2016年度見込みと比べると、ベアが4.8ポイント、賞与が2.8ポイント、それぞれ増加した。

ベアは、リーマン・ショック前の2008年1月に調査した2008年度見込みの40.0%を上回り、過去最高を更新したという。また、賞与(一時金)も2014年1月に調査した2014年度見込みの27.8%を更新し、過去最高を記録したという。

賃金を改善する理由としない理由(いずれも複数回答)

2017年度の賃金改善が「ある」と回答した企業5217社にその理由を複数回答で尋ねると、「労働力の定着・確保」が76.2%と最多であり、過去最高を記録した。人手不足が長引く一方、より良い人材の確保が必要とされる状況において、2015年度以降3年連続で前年を上回っており、企業が賃金を引き上げることで労働力の定着・確保を図る状態が一段と強まっている様子が伺えるという。

2位は「自社の業績拡大」(44.9%)だったが、4年連続の減少となった。3位の「同業他社の賃金動向」(21.4%)は4年連続で過去最高を更新し、他社の賃金動向をより意識する傾向が強まっているとのこと。

一方、2016年度に過去最大の引き上げ幅となった「最低賃金の改定」を挙げる企業が過去最高となった半面、「物価動向」で賃金改善を行うとする企業は急速に減少しているという。

賃金改善が「ない」と回答した2295社に理由を複数回答で尋ねたところ、「自社の業績低迷」が60.0%と最多だったが、前年調査と比べて1.5ポイント減少した。3年連続で6割台が続いているが、業績低迷を挙げる企業は減少傾向にあるという。

次に多い「同業他社の賃金動向」を挙げる企業は2年連続で2割を超えており、自社の賃金決定に他社の動向を伺う企業が徐々に増えてきたとのこと。

2017年度の総人件費と総人件費増加の見通し

2017年度の自社の総人件費が2016年度と比較してどの程度変動すると見込んでいるか聞くと、「増加」と回答した企業が66.4%に上った。半面、「減少」と回答した企業は8.2%にとどまり、全体的に企業は人件費が増加すると見込んでいるという。

2017年度の総人件費は前年比で平均2.61%増加すると同社は見込んでおり、総額で約4.4兆円、うち従業員への給与や賞与は約3.5兆円増加すると試算している。また、前回調査と比較すると、増加と回答した企業が2.7ポイント増、減少と回答した企業が1.0ポイント減となり、2017年度の人件費は全体的に前年度より増大すると同社は予想する。

業界別に見たところ、増加すると回答した企業の比率が最も高かったのは運輸・倉庫だった。情報サービス(3.62%増)や教育サービス(3.44%増)、飲食店(3.43%増)などを含むサービスでは、労働力確保のため総人件費が平均3.13%増と、唯一3%を超えているという。

賃金改善の理由として「労働力の定着・確保」を挙げる企業が76.2%と過去最高を記録した他、逆に「自社の業績拡大」を挙げる企業は4年連続で減少しているとのこと。 企業の賃金改善の背景は、人手不足が長期化する中で労働力の定着・確保を第一に捉えて実施する傾向が一段と強まっていると同社は見る。

企業から「当社は景気回復する見込みで賃金をアップしたが、今更ながら後悔している」(医療・福祉・保健衛生、愛知県)といった声があるように、業績改善を背景としない賃上げは限界に近付いているという。 経済の先行きに不透明感が漂う中で、企業が賃上げを継続的に実施するためにも、政府は企業の業績が上向く経済環境を整えていく重要性が一層高まっていると同社は指摘している。