金沢大学は1月30日、コケ植物ヒメツリガネゴケの「低温ショックドメインタンパク質(Cold Shock Domain Protein:CSP)遺伝子」がヒメツリガネゴケの幹細胞化を誘導することを発見したほか、同遺伝子が哺乳類のiPS細胞誘導遺伝子の1つである「Lin28」と同じグループの遺伝子であることを発見し、幹細胞化を誘導する動物と植物に共通の遺伝子であることを示したと発表した。

同成果は、基礎生物学研究所/総合研究大学院大学の李琛 大学院生、玉田洋介 助教、長谷部光泰 教授、名古屋大学の佐藤良勝 特任講師、金沢大学の西山智明 助教らによるもの。詳細は国際学術誌「Nature Communications」に掲載された。

これまで、動物と植物は独立して進化してきたことから、それぞれ異なった仕組みで幹細胞が作られると考えられてきた。また、共通の遺伝子や分子機構が見つからなかったことから、それぞれの幹細胞形成の研究も独立して進められてきた。しかし、生物全般における幹細胞形成の共通原理が存在するのか、するならどんなものなのかを明らかにするためには、動物と植物の共通点を探すことが求められていたという。

研究グループでは、植物のCSP遺伝子の進化に着目。解析を行ったところ、コケ植物ヒメツリガネゴケの低温ショックドメインタンパク質遺伝子「PpCSP1」とそれに近縁な3つの遺伝子の合計4つの遺伝子を欠失させると、幹細胞化が抑制されること、ならびにPpCSP1が哺乳類の幹細胞化を誘導するiPS因子の1つであるLin28にも近縁であることを発見。この結果などから、PpCSP1/Lin28が動物と植物で共通に幹細胞化を誘導する遺伝子である可能性が示されたとする。

ただし、Lin28はlet-7などのマイクロRNAによって制御されていることが知られているが、これらのマイクロRNAはヒメツリガネゴケゲノムに見つかっていないことから、PpCSP1とLin28はともに幹細胞化に関わっているが、その関わり方は違う可能性があると研究グループでは説明しており、今後は、PpCSP1がどのような遺伝子を制御するかを調べることで、PpCSP1とLin28に幹細胞化の制御機構について共通性があるのかどうかを明らかにし、生物に共通の幹細胞化機構の解明への糸口を見いだしたいとしている。

動物のLin28遺伝子産物(タンパク質)とヒメツリガネゴケPpCSPならびに関連遺伝子産物の系統樹 (出所:金沢大Webサイト)